54※
クーの部屋へと戻ると、そこにはクーのお母さんだけがいた。おそらく兄妹は学園、お父さんは仕事にいったのだろう。今日は休日ではないからね……。
「あら、確か……サラちゃん?」
「はい。今回は本当に……すいませんでした」
わたしは頭を下げる。
「何故、あなたが謝る必要があるの?」
「……もっとわたしがはやくに気付いていれば、こんなことには……」
「それは無理な話よ。それより、クーが無事だった。手遅れにはならなかった。それだけで、十分よ」
……そうだ。わたしは自分で言ったんじゃないのか。たらればの話でしかないと。
「ほら、こっちにきて?」
「………はい」
手招きされて、クーの元へと寄る。規則的な呼吸の音が聞こえ、顔色も良かった。それをみて安心する。
クーは一応すぐに医者にみせた。精神的に身体的に消耗が激しいだけで、暫くは安静に寝かせておけば大丈夫。そう言われたけれど、やはり心配だった。
「わたしは少し席を外すわね」
「はい」
クーの顔を覗く。こうしてクーの無事な姿を見るまで、本当に怖かった。
「本当に良かった……」
視界が滲む。
「クゥーン?」
可愛らしい鳴き声が聞こえたと思ったら、したからあの子狼がでてきた。
「…あなたがあそこでクーを助けてくれたの?」
「ワフッ!」
言葉が通じているのだろうか。まるで返事をするかのように鳴く。
「ありがとう」
毛並みを優しく撫でた。逃げるかと思ったけれど、撫でさせてくれる。とても気持ちよかった。
そしてクーが目覚めたのは、誘拐から5日後のことだった。
「わたし、そんなに寝てたの?」
「そうよ。ほんとに心配したんだからね?」
このまま目を覚まさないんじゃないかって、ものすごく心配した。当の本人はキョトンとしてるけど。
「……ねぇ、クー?」
「うん。聞きたいこと、あるんだよね?」
……ほんと、クーには敵わないなぁ。
「……うん。聞かせてくれる?」
「もちろん!……まぁ、わたしもそこまで覚えてないけどね」
そう前置きして、クーがなぜ自分が誘拐されたのかを話してくれた。
「力を……」
思わず手を強く握りしめる。そんなことをしようとしていたなんて……
「まぁリーヴォが助けてくれたから大丈夫だったよ」
「……リーヴォって、その?」
わたしは目線を、ベットに座るクーの膝にのる子狼へと向ける。
「そう。わたしの……契約獣?になるのかな」
「いつ契約したの?」
「えっと…6日前?」
「……それって誘拐される前日じゃないの」
「まぁ、そうだね。そのおかげで助かったけど」
軽くクーが言うけれど、もし契約していなかったら今ごろクーはここにいなかったかもしれないのよね……。奇跡、とでも言うのかしらね。
「……ところで、クーの左目ってそんな色だった?」
「え?」
「あ、ちょっとまって」
わたしは部屋にある机の引き出しから手鏡を取り出し、クーへと手渡す。
その手鏡をクーが覗くと……
「……違うね」
「やっぱり?」
「うん。前より……ちょっとだけ濃くなってる?かな」
本当に少しだけだけど、クーの左目の薄い青が濃くなっている。やっぱり気のせいじゃなかったのね……。
「なんでかな?」
「うーん…まぁ、大して気にしないでいいと思うよ。体調とか、変わんないし」
「…それもそうだね」
もしかしたらこのまま濃くなって、両目同じ色になったり……いや、それはそれでなんとなく残念に思うわたしがいる。目の色が違うのも、クーの良さだと思うからかな。
「とりあえず今は大事をとって寝てなさい」
「えー…」
クーが不服そうな声を零す。起きてから寝かせられ、休まさせられてばかりで、全然動いていないからだろう。
「明日には許可出ると思うから」
「そっか。ならいいや」
……切り替え早いわね。まぁ駄々こねられるよりましだけど。
「おやすみ」
「おやすみ」
クーの頭を撫でる。するとすぐに規則的な寝息が聞こえだした。ふぅ……クーの話をお父様に伝えなきゃいけないわね。




