52※
対抗戦が開始する直前、わたしにひとつの連絡が入った。それは、クーリアがどこにもいないという連絡だった。
「家に、いなかったんですか?」
「ああ。確かに学園に向かったそうだ」
マンセル先生の言葉に嘘はないだろう。なら、クーリアは何処へ……。
『サラ』
ここでもうひとつの通信具から声が聞こえた。お父様の声だ。
「お父様、どうしたんですか?」
『ああ。クーリアの居場所についてだ』
わたしは驚いた。なぜお父様がクーリアの居場所を……?いや、それよりも、
「どこにいるんです!?どこに!」
『ちょっと落ち着きなさい』
落ち着いてなんていられない。お父様からクーのことを聞くことになるってことは、それだけの重大なことが起きていることと同義なのだから。
「…すいません。それでどこに」
1度深呼吸して、再度問いかける。
『まだ分からない。ただ、男2人組がクーリアらしき人物を連れ去っていくのを見たという証言があった』
「……それじゃあ」
『ああ。クーリアはおそらく誘拐されたのだろう』
なんで……いや、クーの容姿なら確かに高く売れるかもしれない。でも、学園生を攫うなんてそれこそ国を敵に回すようなもの。国立だからね。だからただの人攫いとは考えにくい。……まぁそれを知らないやつかもしれないけれど。
『今全力で探している。…国を敵に回すことを恐ろしさを教えてやらねばな』
「…はい。お願いします。一刻も早く」
『分かっている』
そこで通信は切れた。待っていれば絶対見つかるだろう。けれど、待ち続けるなんてできはしない。
「マンセル先生」
「あぁ、聞こえてたよ。まったく……いつも世話の焼けるやつだ。……行くんだろ?」
「はい……すいません」
「大丈夫だ。それより、お前の方こそ気を付けろよ。襲われても心配はいらんだろうが…」
「分かっています。じゃあ」
わたしは時間が惜しくて、すぐに学園を後にした。ヴィクターやイルミーナも当然のように手伝うと言ってくれた。
「あいつが問題を起こさないことはないな、ほんとに」
そう軽口を叩くけれど、ヴィクターの表情からは心配していることがよく分かる。それはイルミーナもだ。
「ここか?」
「ええ。ここが証言にあった場所よ」
わたしはクーリアが攫われたという場所に到着した。
「じゃあ俺はこっちから」
「ボクはこっちからいくよー」
「分かったわ。気をつけて」
「「もちろん」」
手分けして探すことにする。ヴィクターとイルミーナが走り去った後、わたしはしばらくその場で痕跡を探すことにした。僅かでもいい。なにか、痕跡が……
「うわっ!?な、なんだこの魔獣は!?」
探していると、遠くからそんな叫びが聞こえた。街中に魔獣……?ありえないとは思ったけれど、とにかく気になってしまったので、行ってみることにした。
「うわぁ……」
結論から言うと……いた。大きな、銀色の狼が。でも、魔獣……かなぁ?なんとなく違う気がした。
そうこうしているうちに、銀狼は走り出してしまう。わたしはなんとなく、その銀狼の後を追いかけることにした。けれど足が速くて、とてもじゃないけど追いつけなかった。
「はぁはぁ…」
とうとう見失ってしまう。けれど、騒ぎ声から今どの辺りにいるのかを大体把握することができた。
「こっちっ!」
しばらく騒ぎ声を頼りに走り続けていると、少し離れたところで轟音が鳴り響いた。
「な、なにっ!?」
わたしは今までで1番速いんじゃないかってぐらいのスピードで、轟音が起きたと思われる場所へと急いだ。
「ここって……」
たどり着いたのは、大きな屋敷。わたしの家より小さいけれど、それでも貴族が住む建物だ。しかも、わたしはここに誰が住んでいるのか知っていた。
「マルコス家……」
そう。クーに難癖をつけ、今回の対抗戦で不正を手伝った人物がここに住んでいた。
「ここから聞こえたわよね…」
人がいないようなので、勝手に中へとはいる。すると屋敷の壁が半壊している箇所を見つけた。
そこから覗くと、どうやら地下室に続いているようだった。
わたしは十分に警戒しながら、地下室へと降りていった。薄暗くて見づらかったけれど、地面に倒れるクーの姿を見つけることができた。
「クー!!」
思わず駆け寄る。けれど、そんな私の前にあの銀狼が立ち塞がった。まるで、クーのことを守るように。
「グルル…」
明らかに敵意むき出し。なぜ銀狼がここにいるのか。なぜクーのことを守っているのか。気になることはいっぱいあったけれど、今はクーのことのほうが大切だ。
「どいてっ!」
わたしは銀狼を睨みつける。今思えばわたしかなり肝据わってたわね……。
「ワフッ」
「グルル…」
銀狼の足元から小さな銀狼が姿を現した。なんだろう……どことなくクーに似てる。
子狼となにかを話したと思えば、銀狼は道を開けてくれた。
「クー!」
クーの元へと駆け寄る。手足に拘束されたような赤い跡があったけれど、それ以外に目立った怪我はなかった。呼吸もちゃんとしてる。
「良かった…」
その場に崩れ落ちる。が、すぐにお父様に連絡した。今休まなきゃいけないのはわたしじゃない。クーなのだから。
幸いすぐに人が来てくれた。けれど、気付いたときには銀狼の姿はなかった。いたのは子狼のみ。その子狼はクーから離れようとしなかった。多分だけれど、この子はクーの契約獣じゃないかと思ったので、一緒に連れていくことにした。




