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「あの時は助けなきゃってことだけ思ってたからね…」
倒れたことを思い出し、クーリアが呟く。
「その時もこうやって尻尾で包んでくれたよね」
「……ガウ」
銀狼は未だクーリアと顔を合わせようとはせず、それでも小さく返事した。
「ふふっ。ありがとうね」
銀狼へともたれ掛かりながら、優しく尻尾を撫でる。クーリアから尻尾を離そうとしないということは、満更でもないようである。
「あらあら。可愛い子がいるわね」
しばらくクーリアが銀狼を撫でていると、突然凛とした女性の声が聞こえた。
クーリアが声の元を探すと、森の奥からとても美しい女性が現れた。その顔立ちは、まるで人間ではないかのように整っていて、思わずクーリアは女性のことを見つめてしまった。
「あ、あなたは…?」
少しの時間が流れ、やっと疑問の声を絞り出すことができた。
「わたし?わたしは……その狼の飼い主、とでも言うのかしらね」
それを聞いて、クーリアがバッと立ち上がった。
「す、すいません!勝手に……」
「いいのよー。その子が触らせるなんてとっても珍しいんだから」
「そう、なんですか…?」
そう聞き返してからクーリアは、会った時は警戒されていたことを思い出した。
「確かに最初は警戒されてましたね…」
「やっぱりね。でも、どうしてそこまで仲良くなったの?」
「えっと…怪我をしていたのを治したんです」
クーリアがそう言うと、女性は少し目を見開いた。
「怪我してた……気づかなかったわ」
どうやら飼い主として気づけなかったことを情けなく思ったらしく、目を伏せてしまう。
「わたしが治したからでしょう?」
「それでも気付くものよ……ごめんなさいね」
近づいてきて銀狼の頭を撫でる。すると銀狼は喉を鳴らし、気持ちよさそうに目を細めた。それだけで、飼い主として信頼されているということがよく分かる。
「……そう。あの時ね…でも、どうして分かったの?」
「えっと…声…いや、意思?よく分からないんですけど、助けてって言っているような気がして…」
すると女性は考え込む仕草をする。
「意識の同調…いや、共鳴かしら…ちょっとこっちに来てくれる?」
「は、はい」
女性の近くへとクーリアが動く。すると女性はクーリアの頬に手を当て、お互いの額をコツンと当てた。
(なっ!……うん?温かい……)
最初こそ驚いたものの、ほのかな温かみを感じ、頬を弛めた。
「……これは…人間としては、すごいわね。でも、これじゃ………」
額を離すと、またしてもブツブツと考え込み始めてしまった。
「あ、あの……?」
「あぁ、ごめんなさい。うーん…やっぱり親和性が高いのかしらね…」
「親和性…?」
「ええ。この子とね」
女性が目線を銀狼へと向ける。
「そう、なんですか?」
クーリアは不思議そうだ。それも当然だろう。実感がないのだから。
「そうよ。……うん。そうね、あなたになら託してもいいかしらね」
「なにをです…?」
「ちょっと待ってて」
クーリアの質問には答えず、女性は森の奥へと消えてしまった。




