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出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む  作者: かぐや
学園 高等部一年 対抗戦編
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 数日前。その日は朝から雨が降っていた。


「はぁ……せっかくの休みなのになぁ」


 部屋で1人呟く。雨になれば大体の店は閉まってしまう。クーリアの家、パン屋も然りである。理由としては、客が少なくなるし、湿度のせいで売り物が傷むからである。つまり行く場所も手伝うこともなくなり、必然的に暇になってしまうのだ。


「……本でも読もうかな。それよりも魔法作ろうかな……」


 そう思い本とノートを取り出したところで、クーリアの動きが固まった。


(今何か聞こえたような……?)


 しかし、人の声とは思えなかった。それどころか、言葉であるかすら怪しい。


(……空耳かな?)


 そしてノートを開いた瞬間、またしても()()が聞こえた。


『…………』


 それは言葉ではなかった。なにかの意思。そのもの。しかしながら、クーリアはその意思が悲痛な叫びを含んでいることに気が付いた。


「助けを求めてる……?」


 確証はない。けれど、クーリアは助けなければという思いでいっぱいになった。

 気がつくとクーリアは家を飛び出していた。


 門番は雨のせいでおらず、門も閉まってしまっていた。しかし、叫びのような意思は、はっきり門の外からであると感じた。外に出なくては助けられない。


「……誰も見てないよね」


 クーリアは周りを見渡し、人が居ないことを確かめると、目を閉じて精神を集中した。


「……《テレポート》」


 次の瞬間、クーリアの姿が掻き消える。

 テレポートとは長距離転移の魔法だ。門が閉まってしまっている以上、短距離転移はつかえない。目視できる範囲でしか短距離転移はできないからである。そのためクーリアは、テレポートを使ったのだ。


「……よし」


 無事にクーリアは門の外へと出ることが出来た。転移する距離は極めて短かった為に、魔力消費はそこまでで済ませることが出来た。


「……こっちか」


 叫びは今も感じている。感じる方へクーリアは全力で走った。

 体が濡れようとも、時折転んで泥だらけになろうとも走り続けた。


「森……ここ?」


 叫びは聞こえているが、正確な位置は分からなかった。

 クーリアはまず魔力を広げて森の様子を把握する。いくつかの反応が確認できた。全て魔獣だろう。だが、その中に違和感を覚える反応があった。


(なにこれ……魔獣…?…でも、なにか、違う……)


 叫びの意思を飛ばすことが出来る魔獣など、クーリアは知らない。ならばその違う反応が……

 考えるより早く、クーリアはその反応のする方へ走り出していた。




 しばらく森を進むと、血の跡が点々と見つかった。雨でだいぶ薄れているが、それでも見える。つまり、まだ新しい血ということである。


「こっち……」


 ガサガサと草むらをかき分け、クーリアは血痕を辿った。すると血痕は段々と濃くなり、ついにその元へとたどり着いた。


「……すごい」


 クーリアの目の前には、とても大きな銀色の狼がうずくまっていた。クーリアの記憶にこのような魔獣はいない。それ故にクーリアはしばらくその場で固まってしまった。



「っ!いけない。早く見ないと」


 クーリアが銀狼に近づく。すると銀狼は顔をこちらへと向け、低い唸り声を上げる。警戒されているようだ。


「グルル……」

「大丈夫。敵じゃないよ」

「ガァァ!!」


 近付いてきたクーリアにとうとう銀狼が襲いかかった!……けれど、怪我しているのにいきなり動いたせいか、クーリアにはとどかず、その場に倒れ込んでしまった。


「大丈夫っ!?」

「グワァ!」


 倒れながらも尚唸り声を上げ、クーリアを威嚇する。


「怪我を治したいだけなの。大丈夫。治す以外何もしないよ」


 しっかりと銀狼の目を見てクーリアが優しく語りかける。すると唸り声を止めて銀狼がクーリアから顔を逸らした。どうやら理解してくれたらしい。


「すぐに終わらせるね」


 クーリアは真っ赤に染まっていた後ろ足の毛をかき分け、怪我を見つける。


「酷い……」


 怪我の形からして、猟手が仕掛けた罠であろう。

 クーリアが怪我に手を添える。そして、魔力を流していく。


「…………《ヒール》」


 初級の治癒魔法を行使する。正確には”治す”のではなく、”無くしている”のだが。

 無属性は”無”を司る。なので、怪我すらも無かったことにすることができるのだ。


 魔法を行使した後、クーリアが手を退けてみるが、怪我は治っていなかった。


「なっ!……」


 多少狼狽えたが、すぐに次の魔法へと取り掛かった。効かないのならば、より高位の魔法を使うまで。


「…………《ハイヒール》」


 より多くの魔力を流し、中級の治癒魔法を行使する。すると一瞬だけ、先程は何も起きなかった傷口が光ったように見えた。

 クーリアが手を退けると怪我はきれいさっぱり無くなっていた。


「良かった……」


 そこでクーリアは意識を失い、銀狼へと倒れ込んだ。

 全力疾走からの初級、中級魔法の連続行使。倒れて当然である。

 そんな倒れ込んだクーリアを、銀狼は自身の尻尾で優しく包み込んだ。

 雨はもう、上がっていた。




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