42
クーリアはサラたちと別れ学園を出て、そのまま家へと向かった。
「ただいま」
「おや、今日は早いね」
祖母が出迎えた。どうやら祖父は奥で追加のパンを焼いているところのようだ。
「色々あってね。早く帰ってこれたから出かけるつもり」
「そうかい。じゃあ好きなパン持ってきな」
「うん。ありがとう」
祖母はクーリアが出かけると聞き、昼食として好きなパンを選ばせることにした。幸運なことに、全てのパンが焼きたてであったので、クーリアは嬉嬉として好きなパンを選んだ。
鞄にパンを入れて、制服から普段着に着替え、クーリアは家を後にした。
クーリアが家を出て向かったのは、外壁の門だった。
コルメリア王国の王都であるここは、周りを壁に囲まれており、外に出るための門が四方に設けられていた。そのうちのひとつにクーリアは到着した。
「すいません。出ていいですか?」
門番の男に話しかける。
「…お前さん1人か?」
「はい。これ通行証です」
外に出るためには通行証が必要になる。通行証は住民なら絶対に持っているもので、身分証でもある。
「あぁ…別にいいが、日が暮れる前に帰ってこいよ?」
「分かってます」
「ならよし。気をつけてな」
「はい」
門番の男が日暮れまでに帰ってこいと言ったのには理由があった。
外には魔獣と呼ばれる人を襲う生き物が生息しており、夜になると活動が活発になるため、日暮れまでに帰らないと危険なのだ。そのためクーリアに日暮れまでに帰ってこいと言ったのである。
外に出たクーリアは、しばらく道なりに進み、途中の森へと入った。
森には魔獣が生息しているため危険ではある。だが、クーリアは魔力を広げて周りの警戒を怠っていないので、襲われる危険はほぼないと言えた。
「グルル……」
……だが、言ったそばからこれである。
気づかなかったのか、クーリアの目の前に大きな銀色の狼が現れた。
目の前にいきなり魔獣が現れ、クーリアは驚き怯える……様子などは全く無かった。あれ?
「こんにちは」
「ガルゥ…」
どうみたって警戒されている。だが、クーリアは怯えることなく、銀狼に近づいて行った。
そして銀狼がクーリアに噛み付くっ!……のではなく、クーリアが差し出したパンに噛み付いていた。
「美味しい?」
「……グルル…」
素直じゃないのか、銀狼が目を逸らしながらも返事するように喉を鳴らした。
そんな銀狼の様子に少し笑みを浮かべながら、クーリアも銀狼の隣りへ腰掛けてパンを食べ始めた。
「足の調子はどう?」
「………」
返事はない。なのでクーリアは勝手に後ろ足を触った。普通こんなことをしたら頭から食べられそうだが、銀狼がそんなことをすることはなく、されるがままであった。
「うん。大丈夫そうだね」
「………」
返事はせず、銀狼は尻尾をクーリアに巻き付けた。どうやら感謝しているらしい。
「ふふっ。どういたしまして」
クーリアは巻き付いてきた尻尾を優しく撫でた。
クーリアがなぜ銀狼の足を気にしたのか。それは数日前にあった、ある出来事まで遡る………




