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クーがあまり高い食材を使った料理を好まないのは知っていたから、予めそこらへんを連絡しておいた。
「うわぁ…すごいね」
用意されていた食事にクーが感嘆の声を出す。
確かに豪華ではあるのだけれど……
「クーも一応伯爵令嬢なんだから、これくらいのもの用意されるんじゃないの?」
「確かにそうだけど…週に一回くらいだし」
あぁ…そう言えばそうだったわね。
「とにかく食べちゃいましょ」
「うん」
クーが少しずつ食事をその小さな口に運んでいく。その度に目を開いて蕩けそうな表情をするもんだから、女の子のわたしでもドキッとしてしまった……
「…やっぱり自覚させたほうがいいのかしら?」
クーの表情は、確かに分かりにくいけど、昔よりだいぶマシになったと思う。
現にクーの蕩けそうな表情を見て、顔を赤らめてほぅ…と息を吐くメイドもいるし……って、よく考えたらそれってヤバいわよね。あとで襲われたりしないかしら…まぁクーなら大丈夫だと思うけど。
…って、話がそれた。つまり、クーは同性でも惚れるくらいとても可愛いんだけど、それを本人が自覚してない。だから学園でファンクラブなるものができてしまっているし……。
「ねぇ、クーって好きな人いるの?」
「え?どうしたの、急に」
「ちょっと気になったから」
するとクーが考え込む。もしいるのなら本格的に自覚させないと…。
「いない、ね」
熟考のすえ、いないと言う。目を見たらわかる。嘘は言ってない。
そっかぁ…
「そう、なんだ…じゃあタイプは?」
「タイプ、ねぇ……強いて言うなら、わたしと魔法の話ができる…」
あ、もう無理だわ。
すぐに諦めてしまった。いやだって、クーと魔法の話が、できる人なんてどれだけいる?多分ほとんどいないよ?
……クーには恋人が一生できないかも。
「ご馳走様でした」
クーがもう食べ終わる。出された分は食べているけど、それでも最小限だ。
「それだけでいいの?」
「うん、少食だしね」
…クーの身長が伸びないのってそれが原因では?と思ってしまった。本人に言ったら落ち込むか怒るから言わないけど。
「ご馳走様」
わたしも食べ終わり、クーと共にお風呂へと向かう。
「そう言えば着替え…」
今それに気づいたらしい。クーってたまにこういうことあるのよね…学園では天然を演じてるけど、これは素だから、正直本当に天然なんじゃって思ったり…。
「大丈夫。用意させてるから」
「用意周到だね…」
クーからジト目で見られるけど、気にしない!
お風呂に入ると、クーの青銀の髪が目にはいる。相変わらず綺麗。思わず嫉妬しそうになる。
「わたしが洗うね」
「え?そんなのいいよ」
「洗わせて。ね?」
「……分かった。じゃあわたしもサラの髪洗う」
「うん」
クーの髪を洗う。サラサラで綺麗で、ほんと羨ましい。
「サラの髪綺麗だね 」
「クーの髪の方が綺麗だよ」
わたしはあまり自分の髪が気に入っていない。だってちょっと固くて癖が直りにくいんだもん。
「入ろ」
「うん」
クーと共にお風呂に入る。やっぱり友達とお風呂に入るって、なんかいいね。
そんなことを思いながら、わたしはクーとお風呂を楽しむのだった。




