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「キャー!緋色の騎士様がこっちにきたわよー!!」
どこからともなく甲高い女性の声が聞こえた。ふとクーリア達が視線をスクリーンに移すと、どうやらこの観客席に向かってきているようだ。
「ねぇ…もしかして、もしかしなくても…ここに来る理由って…」
「うん…多分私」
サラの確認をクーリアが肯定する。
「…逃げる?」
ここで注目を集めてしまうと、何かと面倒なのだ。ここには爵位の高い令嬢も多い。彼女らから睨まれる結果となるのは目に見えていたからだ。
「…サラはむしろ、絡まれたほうがいいんじゃない?」
「……クー、ちょっとあなたも教育しようか?」
サラがニッコリと微笑み、拳を握りしめる。
「イエ、ケッコウデス…」
サラの教育…先程イルミーナが受けていたものだ。さすがにサラも本気でクーリアにそれをするつもりは無い……はずだ。
「ねぇ、どうして絡まれたほうがいいの?」
「あー、それはねぇー…」
「クー、ダメ!」
サラが大声でクーリアの声をかき消した。ついでにクーリアの口も手で塞いだ。
「むごむご…」
「(クー、ほんとにやめて!)」
小声でクーリアに囁く。それを聞いて、クーリアはコクコクと頷いた。
「ぷはぁ…ふふっ。じゃあ後で食事奢って?」
「うぅ…分かった」
所謂口止め料である。クーリアもそこまでお金には困っていないのだが、払わないに越したことはない。
「え?え?教えてくれないの?」
「ごめんね、言えないや」
「うー!知りたい!」
イルミーナが駄々をこねるが、クーリアはサラに言うなと言われたので、教えることができない。
……元々クーリアはふざけていただけだったので、教える気などこれっぽっちも無かったのだが。つまり、サラはクーリアにまんまと騙され、無駄な口止め料をとられてしまったということだった。
「「「キャー!!」」」
突然甲高い声が観客席に響く。
声の先にいたのは……
「あ…もう来ちゃった」
緋色の騎士。クーリアの兄だった。
クーリアの兄は観客席に入った途端に令嬢に囲まれ、身動きが取れなくなってしまったようだ。
「クー、どうする?」
「うーん…」
クーリアがこのまま人知れずその場を後にするか悩んでいるうちに、だんだんと人だかりが近づいてくる。どうやら囲まれたまま進んできているようだ。
「あ、クー!」
そしてとうとう、見つかってしまった。ただでさえクーリアは目立つ容姿をしているのに、大声で名前を呼び手を振るもんだから、一斉にクーリアへと視線が集まる。まったく迷惑なものである。
「お、お兄ちゃん…」
おいでおいでと手招きされ、クーリアは仕方なく兄たちの方へと向かって行った。




