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出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む  作者: かぐや
終わりの始まり
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 サラ達の動きが止まる。


「クー……?」


 サラがおずおずと問いかけ、近付こうと1歩足を踏み出す。だが、その肩をナターシャが掴んだ。


「待ちなさい」

「でもっ」

「よく、見なさい」


 そう言うナターシャは、悲しみと怒りが入り交じったような表情を浮かべ、クーリアを見つめていた。


 サラがナターシャからクーリアへと視線を戻す。するとクーリアの俯いていた顔が上がり、2つの紅い(・・)瞳が怪しげに光りを放ち、サラ達を射抜いた。


「っ!?」


 サラが驚きの余り息を飲む。


「……まさか、こんなことになるなんてね」

「クーに、一体何があったんです!?」


 知っているような口ぶりをするナターシャに、サラが思わず詰め寄る。


「……『魔力暴走』よ。『魔力崩壊病』が進行し、重症化した時に稀に起こると言われているわ」


 魔力崩壊病は言わば魔力の制御が効かなくなるということだ。その為、制御を失った魔力が暴走し、その人自身を飲み込んでしまうことがある。それが、魔力暴走だ。

 魔力暴走となった人の特徴は総じて、『紅い瞳』を持つ。だからナターシャは、クーリアが魔力暴走を起こしていると判断した。


「っ!? 伏せてっ!」


 ナターシャが焦ったように指示を出す。その直後、サラ達の後ろにあった木々がなぎ倒された。


「今のクーちゃんは理性を失っているわ。本気でわたし達を殺しにくるわよ」

「そんな……」


 そう話している間にも、クーリアの攻撃は止まらない。

 クーリアが扱う魔法は無属性。それは攻撃には不向きな属性だ。だがクーリアは、魔力の塊を高い制御力で刃のようにして放ってくる。攻撃力は高い上に、不可視の魔法だ。


(嘘でしょっ!?)


 サラはこの攻撃方法を今まで見たことがない。それ故に対応が遅れてしまう。


「痛っ!」


 魔力の刃――魔刃がサラの腕を掠めた。少し掠っただけでも、激痛が走る。


「《結界》!」


 リーフィアが結界を全面に展開し、クーリアの攻撃を受け止める。だが、それも長くは続きそうにない。現に結界は、クーリアの魔法を受けて悲鳴をあげていた。


「どうすればクーを助けられますか?」

「……魔力をできる限り消耗させるしかないわね」


 暴走の原因となっている魔力を減らせれば、理性を取り戻す可能性は(・・・・)ある。だが、それは賭けだ。さらに言えば、サラ達はそれまでクーリアの魔法を躱し続けなければならない。


(これは流石に無理よ……)


 サラはクーリアの実力の一端を知っている。だからこそ、クーリアの魔法を躱し続けるということの不可能さを、嫌という程理解していた。


 そうして悩んでいるうちに、結界が音を立てて砕け散る。だが、すぐさまリーフィアが追加で結界を展開する。しかし、リーフィアの消耗は激しかった。


「リーフィアちゃんは後方で魔法の援護を! わたしとサラちゃんはクーちゃんの魔力消耗を最優先に。それと……」


 ナターシャはサラに2発の魔導弾を手渡した。


「これは……?」

「…魔封弾と呼ばれるものよ。もしクーちゃんが理性を取り戻さなかったら……これを撃って」

「撃てば、どうなるんです…?」


 しかし、サラは撃てばどうなるかを何となく察していた。


「……死ぬでしょうね」


 魔封弾。それはその名の通り魔力(生命)を封印する弾だ。対人専用に開発され、戦後その製法を秘匿された禁止弾である。


「……」

「でも、クーちゃんに人殺しをさせない為にも、ここで止めなくちゃならない。……あなたには、人殺しをさせてしまうけれど」


 魔封弾は魔導銃で撃ってこそ真価を発揮する。だが、ナターシャは魔導銃を持っていない。サラの銃はサラしか使えない為、サラにしかできないのだ。


「……わかり、ました」


 サラは震える手で、1発の魔封弾を回転弾倉の最後に込める。

 

(……こんな形で、本気のクーと戦いたくなかったわ)


 結界が、割れる。

 

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