101※
……わたしは、その場から静かに立ち去る。
「……あら。おかえりなさい」
帰ってきたわたしに対して、ナターシャさんがそう話しかけてきた。
「……ナターシャさん。ひとつ聞きたいことがあります」
「……いいわよ。大方、何を聞きたいのかは予想できるけれどね」
「……『魔力崩壊病』を治す方法は、ありますか」
そう聞くと、ナターシャさんはまるでその質問に答えたくないような、悔しげな表情を浮かべた。
「……今のところ、原因すら判明していない病よ。無論治療法も発見されていないわ。……あまり、勧められる手段ではないけれど、一応延命する方法は存在するけどね」
「……」
わたしだって、その事は知っている。伊達に勉強はしていないし……悲しくも、最も良く知られた病だからだ。
……でも、だからこそ聞きたかった。もしかしたら、ナターシャさんなら知っているんじゃないか、と。
しかし、その希望は、いとも簡単に砕け散った。
「……あまり、あの子を責めないでね。ずっと苦しんでいたんだから」
わたしが顔を俯かせていると、ナターシャさんがそう口にした。
「……知っていたんですね」
「寧ろ気付かないほうがおかしいわよ。だってあの『賢者様』に気に入られてるのよ?魔法で誤魔化せる訳ないじゃない」
……その通りだ。あのお姉ちゃんの魔法による誤魔化し方では、まず間違いなく気付かれる。
「……じゃあ、あの薬は」
「わたしが手配したものよ。流石に簡単には手に入らなかったけれどね」
それは当然だろう。わたしの予想通りなら、あの薬は……この国で禁止された薬のはずなのだから。
「もちろんおじいちゃんから国に届けは出ているから、問題はないわ」
「……せめて家族にくらい、教えてくれても…」
「……ごめんなさい。本当は教えるつもりだったの。けれど……あの子が嫌がったのよ。『今から悲しまれては辛いだけだ』…ってね」
……お姉ちゃんなら、確かにそう言うかもしれない。でもやはり…独りで、抱え込まないで欲しかった。話して欲しかった。相談して欲しかった。
……助けてって、頼って欲しかった。
「……今更わたしがこんな事を言うのもおかしな話なのだけれど……まだ、時間はあるわ」
「……希望は、あるんですか」
「……一つだけなら、心当たりがあるわ」
一つだけ…
「…そのはな「その話、詳しく聞かせてくれますか?」」
わたしの言葉に被せられた声。聞こえた方へと振り向くと……そこには、森から出てきたサラさんとお姉ちゃんがいた。
「…リーフにまで、気付かれちゃったか」
わたしのことを見て、お姉ちゃんがそう呟いた。
「…ごめんね。言えなくて」
「……いいの。手遅れになる前に気付けたから」
ナターシャさんが言った通り、まだ、まだ時間はあるんだから。
「……そう、だね。……ナターシャさん。わたしが助かるっていう方法、教えてくれますか?」
「……ええ」
そう言ってナターシャさんが話し始めた、のだけれど……それは本当に、砂浜に落とした1つの砂粒を探すような、不可能に等しい手段だった。




