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「……ねぇ、答えて」
「………」
「……クーは、何を隠してるの…?わたしに、わたし達に言えないことなの…?」
「………」
クーリアは何も答えない。否、答えられない。
「……なんでも、ないよ」
辛うじて絞り出した言葉は、酷く、掠れていて。
「…なんでもない訳ないでしょっ!?ねぇっ!?」
思わずサラが詰め寄り、クーリアの肩を掴んで言い寄る。
「……少なくともって。これのこと、なのね?」
「………うん」
逃れられないと判断したのか、クーリアが小さく言葉を返す。
「……いつから」
「……もう、1年前から」
「……わたしの家に泊まった時、残っていた魔力残滓は、これを隠す為だったの…?」
クーリアが少し目を見開く。まさか気付かれていたなど、思っても見なかったからだ。
「…原因は?薬を飲んでる以上、分かってるんでしょう?」
「……サラは、さ」
「…なに」
「……わたしを、変だと思ったことは、ない?」
問いかけの答えになっていなかったが、サラは無関係な話の内容ではないと判断し、しっかりと目を見て答えた。
「…正直、他の人とは違うと思う。でも、でもね?悪い意味じゃないのよ?」
必死で言葉を付け足す。そんなサラの様子に対して、クーリアが苦笑を零した。
「うん、分かってるから。………じゃあ、もう1つ」
「……」
「……『魔力崩壊病』は、知ってる?」
「っ!?」
サラが息を飲む。これからクーリアが言おうとしていることが分かってしまったからだ。
「…知ってるわよ。もちろん」
だが、サラは辛うじてそう返すことが出来た。否、そう返すしか、なかった。
…『魔力崩壊病』、それは、不治の病と呼ばれる病気。
原因不明。治療法不明。数少ない判明していることは、身体内部の魔力が暴走し、自らを崩壊させてしまうということ。……それと、もう1つ。
「……魔力が、多い人に発症しやすい病」
「その通りだよ。……じゃあ、わたしが言いたいこと。もう、分かるよね?」
分かりたくない。理解したくない。それでも……サラには、分かってしまった。
「…クーは、魔力が多いものね」
「うん。自分でも怖いくらいに。……だから、これは必然だったのかもね」
クーリアが約1年前から蝕まれている病。それが、『魔力崩壊病』だった。
「…じゃあ、その薬は」
「気休め程度の延命措置。本来は毒だけどね」
生物にとって、魔力は生命力そのもの。それを失えば死ぬ。そして、クーリアが飲んでいた薬は……その魔力を強制的に放出する薬。身体内部の魔力が少なくなれば、崩壊は一時的に遅まるのだ。
……だが、この薬を常人が飲んだ場合。全ての魔力が放出され、死を迎えることになるだろう。それ故に、毒。
「………何時まで、なの」
「……正直、分からないというのが本音。もしかしたら明日にでも死ぬかもしれない。本当は、卒業までは確実に持つはずだったんだけどね…」
病の進行が、予想より遥かに速かったのだ。もう、時間はあまりないだろう。
「…だからさ。もしわたしが死んじゃったら、ノートを全部燃やしてくれないかな」
それが残ってしまっては、大変なことになる。
「……嫌よ」
「…え?」
クーリアが素っ頓狂な声を上げる。まさか、断られるなど思っていなかったからだ。
「……わたしは、諦めないわ。絶対、クーを助ける方法を見つけてみせるから」
「……無駄だとしても?」
「無駄なんて何一つないわ。わたしは……あの日から絶対に、貴方を護ると決めたんだから」
あの日。それは、クーリアが攫われた日のことを指していた。
「……だから、生きなさいよ。わたしが貴方を助ける方法を見つけるまで」
「………無理難題言うなぁ」
「あら。それをいつも壊すのは誰かしら?」
そう言ってサラが不敵に微笑む。その表情を見て、クーリアも自然と悲しげで、しかし嬉しげな笑みを浮かべるのだった。




