第7話
一向に進まない『第一章 魔力の導入』だが、二ヶ月を過ぎる頃、何となくだけれど、魔力ではないか? という気配を感じ始めた。そんなある日の食事での出来事です。
「大分、君も人間らしくなってきたね。出会った頃はまるで人形のようだったよ」
「人形ですか! そのように見られていたとは…。ですがローハン様も、人間らしくありません!」
「僕にはちゃんと自覚がある」
「いえ、ローハン様もケイト様がいらしてから、随分と変わられました」
「ぼ、僕がかい?」
「はい。例えば、食事の際に本を読まず、会話をするようになり、食事も楽しまれるようになりました」
確かに食事のときは「食事中は無言でお願いします」と侍女のユカに言われていた。
「そうだっけ? う〜ん、今まで屋敷で魔法について語る相手もいなかったし、結局、魔法について語るのは一日一回で…。食後にまで待つのも待ち遠しくて…。あれ? 何か、僕…言い訳してない?」
「いいえ、今の方が…とても素敵です」と侍女のユカは嬉しそうに言った。
「そ、そうか…」ローハンは誤魔化すように、いつもはしないおかわりをしていた。
そして、食後の魔法談義と質問コーナの時間だ。
「そうそう、君に奴隷を付けようと思う」
「えっ? 何故ですか?」
「ペットという言い方は良くない…な。う〜ん。君自身、あまり奴隷という誓約に振り回されていない。つまり自由への渇望と生への執着…。前にも言ったと思うが、魔力を見つけるためには『想像力』と『欲望』が必要だ。君には欲が少なすぎる。なので、奴隷の本質を持つ本物の奴隷を君に買ってあげようと思う。ポイントは目だ。死んだ目をした奴隷は駄目だよ。欲望どころか絶望しているからね。まーそっちでも良いんだけど。いや、うん、君に任せるよ。ロイの系列店だから心配はない。街も慣れたと思うし、話は通してある。一人で行ってくると良い」
何故か奴隷が奴隷を買うことになりました。奴隷など不要と言いたいのですが、二ヶ月間で何も成果のない私には、ローハンが考えてくれた提案を断ることなど出来ませんでした。
帝国の街を一人で歩くのは初めて。人生でも二回目。当たり前の事が当たり前じゃない私の人生について考えていると、大通りにあるロイの奴隷販売店に着いた。しかし、小洒落た店構えは、とても奴隷を売っているような店には見えません。
「いらっしゃいませ」と店内から若い男性が笑顔で出てきた。
「あの…私は、えっと…ロ…いえ、ロイ・ランペルツ様の奴隷で、魔道士ローハン様のお屋敷で…」
「ケイト様ですね。お待ちしておりました。どうぞ店内にお入りください」
奴隷商人が奴隷に対して、ここまで丁寧な対応をするものだろうか? ロイは…それ程、私に期待をしているのか? ならば、一日でも早く魔法を身に着けないと…。
店内は悪臭どころか、香り豊かなハーブティーの匂いが漂っていた。奴隷たちは拘束具を手や足に付けられているものの清潔感のある衣服を身に付け、普通にソファーに座ってお茶を楽しんでいた。
あっ…。私と同じ…貴族出身の奴隷? 奴隷たちの作法や身のこなしをみていれば、庶民でないことがわかる。
「こちらはランクAの商品になります。ケイト様には、ローハン様よりランクFの商品を紹介するように指示されております」
借金奴隷、犯罪奴隷、孤児奴隷、性奴隷など、どのような理由や経緯で奴隷になったか。元の身分、容姿、能力、性別、年齢、健康状態などの価値でランクが決定されるみたい。
ランクFの奴隷は、店内を抜けて中庭を通り離れの地下室に展示されていた。地下室は薄暗く、私のイメージ通り、鼻をつんざく悪臭とボロボロの衣服の奴隷たちが檻に入れられていたのだ。