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第3話

 たどり着いた街は、リゼレスト帝国第二の都市ジェノマ。

 人口十万人を誇る商業都市であるがケイトは知らない。

 独立都市カレデンと街の造りを見比べようとしたが、殆ど街に出たことのないケイトには違いが理解らなかった。

 そして、馬車は街に入っても迷いなく進み、ある屋敷の前で停車した。


 ロイが現れなければ、雪降る寒空の下で凍死していたか、体を売りながら生きながらえていたか、浮浪者たちに助けられていたか、何れにしても…今よりは過酷な運命であったに違いない。

 そんな思いから自然とロイに対して感謝の言葉が漏れていた。


「この仕事を始めてから十年近くなるが、感謝されたのは初めてだ」


 ロイが驚いていると、屋敷の中からメイド風の女性が出て来て、屋敷へ続く門を開く。

 しかし、馬車もロイも動かずに、「さぁ、ケイト。君はここで魔法を学ぶのだ」と、一人降ろされた。


「どうぞ、こちらへ」


 自分が住んでいた屋敷に比べるとかなり小規模ではあるが、中庭は隅々まで手入れが行き届いている。

 その庭園を彩る草花は、少々主張がきつすぎる気もするが、それは建屋の外壁を飾る帝国調と同様に一般的なのだろう。


「私はユカ。この屋敷の侍女でございます。ここでの暮らしには幾つかのルールがございますが、まず一つ覚えて頂きたいこと――。屋敷の二階は全て、この屋敷の主であり魔道士であるローハン様から、立ち入りが禁止されています。何があっても階段は上らないように」

「わ、わかりました」

「それでは、ケイト様のお部屋をご案内いたします」

「あ、あの…。私は…奴隷です。様は不要です」

「存じております。しかし、ランペルツ様からは、ローハン様の次に大切なお客様だと承っております」

「そうですか…。それで、ローハン様とご面会は可能でしょうか?」

「先程もご説明した通り、二階には立ち入れません。食事の際に下りてくるまでお待ちください」


 案内された部屋に入ると、テーブルの上に一冊の魔導書が置かれていた。


「入門書?」


 どうやら先生になるはずの魔道士様は、私に付きっきりで魔法を教える気はないようだ。

 魔導書を手に取ると、ベッドの端に座った。

 表紙をめくりとバリバリと音がした。余程古い本なのだろうか?


 目次を探したつもりだが、『第一章 魔力の導入』というページが目に入った。


「それはね。千年前の魔導書なんだよ。現在主流となっている『詠唱』や『印』による発動ではない、魔力との会話による…本物の魔法が学べる。君は本当に運が良い」


 確かにドアに鍵をかけたはず…。


 声のするドアの方へ向き直すと、20代前半のローブを着た青年が立っていた。


「ロイから頼まれてしまったからね。だけれど、僕も忙しい身でね。君は、その魔導書で学んで欲しい。そして、一日一食の食事を取るために下りてくる時、わからないことを質問して欲しい。結局、本人が魔法が好きかどうかなんだよ。好きなら…その本は最高の宝になるのはずだ」

「やってみます」

「うん。それじゃ、ご飯を食べようか」


 侍女のユカが作った食事は、下拵えから十分に手間暇かけて作った事が、一口食べただけで判断できた。しかし、ローハンさんは、この努力の結晶とも言える料理を…本を読みながら食べていた。


 料理運びを手伝う際に、「食事中は無言でお願いします」と言われていたため、文句の一つも言えませんでした。


 貴族から奴隷…そして、魔道士の弟子へと目まぐるしく、立場も住む場所も変わっていく。魔法が自由に使えたら、自分で道を選べるのだろうか?

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