第19話
月明かりに照らされた部屋。衣服を脱ぎ全裸になったケイトの指からピンクの毛糸が伸びていた。ピンクの毛糸は目的を持ってケイトの体に巻き付き、下着を始め、靴下や黒衣の外套と変わっていき、最終的には靴も作り出した。
そして、足元には転移の魔法陣が構築され、ケイトはやはり月明かりに照らされた荒野に立つ。
外套のフードを深く被ると魔法の影響なのか素顔が黒い靄に隠された。軽い足取りで地形で上手く隠れていた竪穴に近づく。そこには二人の大柄な男が門番として立っていた。
「ボス。おかりなさい」
ケイトは無言で手を上げ、男たちに答える。ケイトは盗賊たちが酒や賭け事を楽しんでいる大広間を抜け、ボス専用の部屋に入る。
しばらくするとアローネと呼ばれる少女の奴隷が紅茶を運んできた。
「乱暴はされてないわよね?」
「はい…。ボスのおかげで大事に扱われています」
ケイトは納得すると、紅茶に砂糖など入れず口にする。
「ボス、おかえりなさい。早速ですが…」
今度はケイデルスと呼ばれる元々この盗賊の頭だった男が入った来た。禿げ上がった頭と眼帯に深く刻まれた傷。まさに絵に描いたような盗賊の面構えだ。
「フェイセルブルズ銀行の金庫を狙う計画ですよね? これが地下を掘り進めた地図です」
ケイトならば直接銀行の金庫内に転移できるのだが、進出奇抜な転移を誰かに知られるわけにはいかない。今のケイトの知識は、『怠け者の魔法陣』を使い、リゼレスト帝国第二の都市ジェノマの図書館にある蔵書などから仕入れて知識や過去の新聞から知り得た一般常識で満たされている。そんな知識から考え出された答えだ。
そのため盗賊が頑張って地下を掘り進めたように、ケイトの魔法を使用して、銀行の地下室の真下まで掘り進めておいたのだ。
「銀行地下室の床は一時的に木の柱で支えておきました。柱を倒せば床は抜けるでしょう。実行計画はケイデルスに一任します。前回は私が6割でしたので、今回はあなた達が6割です」
「へへっ。こりゃ、部下たちも喜びます。しかし、良いんですかい? 前回と金額が違いすぎますぜ?」
「問題ありません。ただ部下たちに伝えてください。なるべくお金は家族たちのために使うようにと」
「わかりやした」
「こちらからの報告は以上ですが、ケイデルスは何かありますか?」
「へい。また縄張り争いなんですが、ここより北に王国から流れてきた盗賊団が街道の商人たちを襲いすぎて、商人たちが帝国の騎士団へ討伐依頼を出すとか出さないとか…」
一度、騎士団が討伐に派遣されると、近隣の街や村に駐屯する形で居座る可能性が高い。理由としては、帝国が騎士団の運営に掛かる費用を抑えるためだ。盗賊への討伐依頼を出したのが商人だとしても、商人を利用する街や村の住民が協力するのは当たり前だという大義名分がある。それにかこつけて地域を巡回するものだから、盗賊たちからしたら大迷惑なのだ。と、図書館で得た知識を展開する。
「今からでも間に合うのですか?」
「へい。商人たちへの根回しは出来ております。数名だけ生かして商人に引き渡せば、後は商人たちが街の衛兵に引き渡す手はずに」
「では行きましょう。その盗賊たちの拠点は何処ですか?」ケイトはアローネに地図を用意させ、ケイデルスに場所を聞く。
「殲滅で…問題ないですよね?」
「へい…いや、商人たちに引き渡す分は…殺さないでください」