第1話
「お前は、カレデン家の家名を名乗ることも、関係を暴露くすことも許さん!! 見るだけで吐き気を催す!! こいつを屋敷から叩き出せ!!」
美しく着飾っていた衣服を剥ぎ取られボロ雑巾のような布を体に巻かれると、雪が降る寒空の下に放り出された。
独立都市カレデンを治める子爵バレン・カレデンの側室の娘、つまり庶子であった…私は、魔法属性が『毛糸』であったため、家族も家名も人権も尊厳も全て奪われ、路上生活者となった。
この世界では魔法属性が人間の価値を決める。代々カレデン家は『火』に纏わる属性を生み出す由緒ある家系だ。それがよりにもよって、『火』で燃やし尽くされてしまう『毛糸』なのだ。一族始まって以来の恥である。その父親であるバレン・カレデンは、出来損ないの私のために、一族から避難されるのを恐れたのである。
「寒い…」
下着姿にボロボロの布を纏っただけだ。氷の上と変わらないほどに冷え切った石畳は、容赦なく私の体温を奪っていく。
多分、明日の朝日を見ることはないだろう――
それでも行く宛もなく、ただ彷徨う。
庶子であっても大事に育ててくれた。数時間前まで…。属性の結果が出るまでは間違いなく愛情を注がれていた。
誰がこんな悲劇を予想できたというの?
屋敷からほとんど出ることのなかったあたしは、屋敷の外で生きる術を知らない。恐らく、目の前で降り続く雪にはしゃいでいる子供よりも。
子供を見ていたら、その両親から憎悪に近い何かを感じだ。それは私の格好を見て、子供に害をなす存在だと思われたということか? 数日前までは、屋敷の庭で遊んでいる私を、庶民達は屋敷の横を通り過ぎる時、壁の隙間から羨ましそうに、尊い存在のように見ていたと言うのに。
『立場の弱い人間は、日の当たらない裏道へと入っていく』と何かの書籍で読んだことがある。まさに、今、その通りになろうとしていた。
表通りから数百メートル入っただけで、街の常識を知らない私でも、不潔で危険な場所に入ってしまったことを理解した。
「よう、ねーちゃん、いくらだ? 寒いだろ? 今夜、俺と過ごさないか?」
意味が理解らなかった。助けてくれるの?
「おい、聞いているのか? いくらだって聞いてるんだよ!!」
薄汚い中年の男性は、酒臭い口臭をばら撒きながら近づいてくる。
「ひっ!?」恐怖で硬直する。
そこへ一人の男性が従者を連れて現れ、酔っぱらいを追い払う。
私は運命を呪う。私の元・婚約者であり、父親であるバレン・カレデンが一方的に婚約破棄した相手だからだ。元お父様が言うには、人間の皮を被った悪魔らしい。
彼はとても優しい笑顔で告げた。
「悲惨な死から救って欲しいなら、私の奴隷になりなさい」と…。