第16話
ラウが倒れてから一ヶ月が経過した。その間にローハンの書庫にある全ての本を『怠け者の魔法陣』を使い記憶してしまった。知識は技術の糧となり、私の魔法陣の構築技術も向上し、最難関の魔法陣でさえ構築に一分を切った。つまり『印』は『詠唱』を元にして作成られた簡略された『魔法陣』であるため、実質私は全ての『属性』を扱えるようになったのだ。
残念なことに、ラウの治療に関する魔法はなかった。しかし、死者を操る魔法、魂を別の肉体に移し替える禁忌の魔法は見つかった…。
「ラウ。行きます」
右手人差し指からピンクの毛糸が伸び、魔法陣を構築する。その間に別の毛糸がラウの体を顔以外包み込み持ち上げた。
ケイトが魔法陣の上に立つ。ケイトの体は薄れて崩れ去るように消えた。そして、ケイトと毛糸で繋がるラウも同様に消え去った。
そして、ケイトとラウは大聖堂を一望できる高い建物の屋根の上にいた。つまり先程構築した魔法陣は転移の魔法陣だったのだ。
「ケイト様…ありがとうございます…」
ケイトは何も言わず、ラウの頭を撫でた。全ての属性魔法を再現できるケイトは、恐らく大陸全土でも最高峰の魔道士だ。自覚もある。しかし、現にラウを治療できないのだ。魔法は全てを解決してくれるものではないと身にしみて理解していた。
大聖堂を見て満足たラウは、太陽の光が毛糸を暖めていたのか、気持ちよさそうに寝てしまった。ケイトは再度転移の魔法陣を構築して屋敷に戻る。
ローハンが帰って来ない。これ程長く屋敷を空けるのは初めてだとユカが言っていた。ローハンが帰って来ないと、次に何をすればよいのかわからなかった。しかし、ローハンに全ての属性が再現できることを伝えるべきか悩んでいた。
やることのないケイトは外出する時間が増えた。その時間はケイトを解放的にさせた。貴族でいたときよりも自由で生きていることを実感できた。ケイトは散財することもなく、ただ街を歩いているだけで楽しめた。
街の広場から伸びる大通りを進むと、街路時に入る分かれ道に、人だかりが出来ていた。
「なんでしょう?」
ケイトは好奇心を満たすため、人だかりを掻き分け、人だかりの先頭に出る。しかし、ケイトは己の好奇心を恨んだ。そこには若い女性の切断された頭部と体が無造作に捨てられていたのだ。
今朝読んだ新聞を思い出す。『首千切の怪人の被害止まらず、47人目の被害者』ということは、目の前で殺された女性は48人目の被害者?
「道を開けろ!!」と現れた憲兵により、通路は封鎖され野次馬達も排除された。酷い現場を見てしまった ケイトは近くのカフェでぐったりしていた。
しかし、生きたまま首を引き千切るなんて、酷い殺し方だ。
私なら…犯人を捕まえられる…かな? でもどうやって? ローハンの書庫にある魔導書の中に使えそうな魔法があるかしら? 記憶の残滓を調べる魔法があったはず。
ケイトは殺害現場に戻ると、誰も居ないことを確認して、小さな魔法陣を構築する。
そこに映し出されたのは、殺害された女性と犯人であった。犯人は大柄な男で、フードを深く被り女性の背後から近づいた。しかし、何かを感じた女性は振り返り、慌てて走り出す。犯人も走り出すが、そのときフードが脱げ男の顔が露わになる。そして…首を掴んで…。
「そんな…馬鹿な!?」と驚く数人の憲兵にケイトは囲まれていた。