第13話
ローハンは、ラウの治療は誰も出来ないと言っていた。ラウの病気も知られてはいけないと言っていた。私はラウの死を看取ることしか出来ない。
ベッドで寝るラウの手を握った。暖かく小さな手だ。南の小さな街から出なければ、盗賊に襲われなければ、腐湖ポカヘストブラスの水に触れなければ、このラウの運命には分岐点は確かにあった。しかし、この小さな手の少年は、その分岐点を自分の意志で変えることが出来たのか? いや、無理だ。ならば、それは分岐点とは呼ばない。では、何だというのだ、ラウが生まれてきた意味は…。
「ケイト様…」
ラウが目覚めた。ラウは天井をぼーっと見ながら、瞳を閉じる。そして、また寝てしまった。上下に規則正しく胸が動き、ラウの表情も苦しさから解放されたようだ。
「落ち着いたようですね」
私の隣りに座っていたユカも安心したようだ。ユカは立ち上がり、自分の仕事に戻った。私はもう少し、ラウの側にいることにした。
ユカに起こされる。窓の外は真っ赤に染まっていた。私は椅子に持たれて寝てしまったらしい。ラウはベッドで横になりながら、私がユカに起こされるのを笑ってみていた。
「ラウ。苦しくないですか?」
「はい。ケイト様。ごめんなさい…」
「何故謝るの?」
「大聖堂に…行けなかったから…」
「また、行きましょう」
「…はい」
ラウは私の寝顔を見ながら、先にユカに夕飯を食べさせてもらったらしい。うん? どういうことだ? 先に起こしてくれても良かったのに…。
ラウを寝せて、私はユカの待つ一階に下り、一緒にご飯を食べた。食後にローハンから手紙が届いていることを知らされた。
「ローハン様は、しばらくロイ様のところで、お仕事に専念するらしいです」
ユカが差し出した手紙を読む。私には魔法の学習方法について指示が書かれていた。そこにはローハンの部屋の一部、書庫への入手つ許可が書かれていた。ローハンの部屋って…複数あるのかな?
不思議な屋敷で、『屋敷の二階は全て、この屋敷の主であり魔道士であるローハン様から、立ち入りが禁止されています。何があっても階段は上らないように』と言われていたのに、私やラウの部屋は二階にある。しかし、二階へ上がる階段が別れているため、問題ないらしい。
「これが書庫の鍵です。場所は二階に上がって右側一番奥の突き当たりです」
ユカから鍵を受け取る。
「ありがとう。ちょっと興味があるわ。行ってみる」
ランタンを持ち、二階に上がる。ローハンの部屋への階段は、屋敷の正面玄関のエントランスホールにあり、階段を上がると左右に廊下が別れている。ユカの指示通りに右側の突き当りを目指す。
窓が一切ないため、何処からも月明かりが入らず、真っ暗で怖い。ランタンの灯りだけが頼りだ。と言っても、特に問題なく書庫にたどり着き、鍵を開けて入る。中は誇りとインクの匂いで満たされていた。部屋には窓はあるが、日光が入らないように塞がれていた。
部屋の構造は、扉を入ると左右に本棚があり、びっしりと埋まっている。ローハンの手紙によれば、左側はレポートなどの記録なので絶対に触れるなと書かれていた。私のは右側の本棚をランタンで照らす。
入口側から2/3程度は、ほぼ属性別の魔導書らしい。
何となく、『火』の属性に関する魔導書を手に取った。