第12話
ケイトはローハンから渡された魔導書(入門編)をクリアして、魔導書(属性編)に手を付けていた。属性編にはどの属性持ちでも役立てるようにと具体的な内容はなく抽象的な概念と多角的な訓練方法が示されていた。
毛糸なんだもんね。ケイトはメリアス編みでセータを作ることにした。と言っても魔力が無くなれば毛糸は消えてしまうのでセータを完成させることは出来ないし、時間がかかるため途中までとなる。しかし、毛糸を伸ばす事は魔力の増強に、道具を使わずに毛糸本体を動かして編むというのは細かい制御の訓練に適していた。
ちなみにケイトは編み物などしたことがないため、魔導書(属性編)と編み物入門の本を同時に読み進めることになったのだ。
魔力欠乏症なのか、集中力を使い果たしたからか、ケイトは頭痛に襲われベッドに倒れ込む。するとラウが水で冷やしたタオルをおでこに乗っける。ここ数日のパターンであった。
そう言えば、ラウの属性は何だろう? あぁ…。そうか、一般的には…例え属性がわかったとしても、『詠唱』と『属性』と『魔力』を結びつける『印』を体に刻み込む必要がある。『印』は…私の家では代々伝えられたものだったけど、一般的にはどうするのかしら?
ユカに聞いてみると、属性に対応する『詠唱』は魔法省が管理している。そして、安全が確認された『詠唱』は『印』として、高額で販売されるため、その利権やら利益やらに群がる貴族たちによって、魔法省は腐りきった組織になっているらしい。
「何故、ユカはそういうことを知っているのですか?」
「新聞を読んでいますし、買い物に行けば、日常会話の中でそれなりの情報を得られますから」
「ユカは『印』を刻んでいるの?」
「まさか…。『印』はとても高額ですし、一般人には魔法は必要ありません」
その日の午後、私はラウを大聖堂に連れていくことにした。ユカも一緒に行くと言い出したのだが、そうするとラウの行動が制限されてしまう。
「ユカ、お願いがあります」
「何でしょう?」
「今日の午後だけは、奴隷とか、マナーとか、そういうのを忘れてあげて欲しいの」
「……わかりました」
意外と、あっさり許諾したユカ。
「私とて、ラウには思うところがあるのです」
「ユカ…」
部屋で待つラウを呼びに行く。だが、あえて自由にして良いとは言わない。我慢できるところは我慢してもらう。感情が理性を超えてしまっても怒らない。そういうことなのです。
私がドアの前に立つ。いつものようにドアが内側から開くのを待つが開かない。
寝てしまったとか?
以前にも何回か、寝てしまっていたことがある。だが、ドアを開けるのは、ラウが自分で考えたことであって、強制させているわけではない。
ドアを開くと、いつか…その時が来るだろうと、予感していた…それが現実になった…。
「ラウ!?」
ラウは座っていただろう椅子から落ちた状態で、口から血を吐いていた。
どうしよう!? どうすれば!? 息は? まだある…。
ラウの頭を膝の上に乗せる。何も出来ない…。ごめんなさい…。頭を撫でる事しか私には出来ない…。