第11話
「まず、ケイトには気を付けて欲しいことが幾つかある」
ローハンはテーブルに紙の束を投げた。
「これは新聞と言って、政治、経済、事件、芸能、賭博など、帝国の時事問題や最新事情が掲載されているものだ。ジャーナリズムとか言ってたかな? あまり鵜呑みにするのは危険だけどね。これで帝国というものを勉強すると良い」
「新聞ですか…」
紙の束を広げると、細かい文字がびっしりと書き込まれていた。これは手書きかしら? それとも魔法? 魔法の練習で何事にも興味を持つようにとローハンに言われているためか、新しいものは特に気になる。
「まぁ、後でじっくりと見るといい。それと僕はしばらく屋敷を空けるね」
ローハンは、しばらくジェノマを離れるらしい。詳細を聞いたところで何も答えないと思う。「わかりました」と事務的に答えておく。
ローハンが出て行った後、ラウが近寄ってくる。ラウはローハン、ユカ、私の行動パターンを把握し、その上で自分の立場をわきまえた行動が出来るとても良い子なのです。
「ケイト様。新聞をお部屋にお持ちします」
「うん。ありがとう」
ラウに新聞を渡し頭を撫でる。ユカ曰く、「そのような奴隷を甘やかす行為はいけません」と言われるが、私が十分に甘やかされているのだ。少しぐらいお裾分けしても良いだろうと思う。
食後の魔法談義と質問コーナの時間で使用した食器を片付けようと立ち上がると、「ケイト様、それは私の仕事です」とユカに怒られてしまった。
自室に戻ると、ラウは私が帰るのを待っていたのか、私が扉の前に立つと部屋のドアを開け、私が部屋に入ると邪魔にならないように部屋の端っこの椅子に座る。
あまりにも可愛いので、ラウを呼び寄せ抱きしめた。ラウの顔は私の…胸の谷間とは呼べないがそこに押し込まれている。ラウが性的に興奮してしまうのなら止めるが、ラウには母や姉に抱かれているという感じなのだろう。
「さて、これから新聞を呼んでみますが、ラウは外で遊んできますか?」
ラウに残された時間は、どのくらいなのだろうか? 理解らないが、それまでは出来る限り自由に、同世代の子供が経験するような当たり前の経験をさせてあげたいと思っている。
「ここに居ると邪魔でしょうか?」
「邪魔じゃないけど…。外に行きたくないの?」
「ケイト様の近くにいたいです」
それもラウの自由だ。希望通りにさせてあげる。ラウは部屋の端っこに戻り、遠くから私を見つめる。少し恥ずかしいが、自由にさせる。
新聞に目を通す。各項目のタイトルなのか大きな文字が最初に目につく。『魔法省の使途不明金の闇にメス』、『隣国サバーニ王国軍備増強、開戦間近か?』、『恐怖首千切の怪人40人目の被害者』など、暗い話題ばかりだった。だけど、そんな世間の流れと言うか、話題を知らないことに、少なからずショックを受けた。
ドアがノックされる。ユカがお茶を用意してくれたのだ。ラウに目配せをすると、ヒョイッと軽い身のこなしで椅子から下り、ドアを開ける。
「ラウ、椅子からは静かに下りるものです」とユカに怒られる。
ここからはユカと少しばかりガールズトーク? な時間である。
ユカは私の知らないことを沢山知っている。
ローハンからの指示もあるだろう、ユカは嫌な顔一つせず私の相手をしてくれるのだ。