第10話
「なるほど。奴隷の必要性が無くなっちゃたね」
「でも、ラウのおかげです。だから…」
「残念だけど、治癒魔法は専門外なんだ。それと忠告だけど、神殿などの治癒が可能な場所に連れて行かない方が良い。なぜならば、”腐湖ポカヘストブラスの水に触れた”というのが不味い。まず法外な料金を請求される。それだけならば良いのだけれど…。いや、間違いなく世界厄災安全保障の連中が出てくるだろう。そうなると…ラウは処分されてしまうよ。そして、そもそも厄災関連の病を人間が治癒したなんて聞いたことがない」
「そんな…」
診断するにも高額。しかも逆に殺される可能性がある。診断しても治せない可能性が高い。
「どのぐらい生きられるかわからないけど、嘆いていても仕方ない。ラウがしっかりと働くなら、それなりの待遇を約束するよ」
「わかりました…」
「で、ケイト。魔力の導入を見せてくれないか?」
「は、はい」
怒りより悲しい感情が溢れている…。それを糧にして…魔力を…。
右手に熱が篭もる。そして、指先から…ピンクの毛糸が少しだけ現れた。
「こ、これは…。ケ、ケイト!? 君の、君の属性は!?」
「『毛糸』です…」
「こんな近くに…我が師、大魔導師エイボラの求めていた…片割れが…。ははっ! いや、ケイト、君の属性が『毛糸』だと知る者は誰だい?」
「父のバレン・カレデン…。他にも家族が知っているかも…。それと、ロイ・ランペルツ様ぐらいです」
「ふふっ。貴族と言えども所詮は凡人か…。ケイト、良いかい? 屋敷の外で魔法を使わないこと。つまりケイトの魔法は特殊すぎて、見る人が見れば…トラブルの元なんだ」
そうなの? と、私は人差し指から伸びたピンクの毛糸を見つめた。こんな有害とは対極の位置にあるような物が?
「では、『第ニ章 魔力の変換』、『第三章 魔法の制御』に進んでくれ。『第ニ章 魔力の変換』は既に出来ているから読む程度でかまわない」
食後の魔法談義と質問コーナの時間が終わり、ラウが待つ私の部屋に戻った。ラウはまだ子供であり、性的というより母親の代わりとして私を見ているし、そもそも私の奴隷なのだから、寝込みを襲われるようなことはないと、少々強引に同室にしてもらった。
「ケイト様?」
固まっている私にラウが心配そうに声をかける。
私は部屋に入って思い出した。寝るときって…裸だということを…。相談しようにも、ローハンの部屋には入れないし、ユカでは判断が出来ないと言われてしまうだろう。どうしよう…。
優先順位は、ロイ、ローハン、私、ユカ、ラウ。原因は私の思慮不足。
うん? そもそも、ローハンのことだから、『第一章 魔力の導入』が上手く行かなければ、間違いなくラウと同室にさせれれていた? 勿論、寝る時裸になった私が、ラウに見られるとか、そんなことを気にするタイプじゃない。
結局、どうしたって同じ結果になった気がする…。私は諦めてラウに説明した。
「だ、だから…恥ずかしいから、あまり見ないでね」
「わ、わかりました…。大丈夫です。俺は床で寝ますから見えません」
「そんなの駄目に決まってるでしょ! 同じベッドで寝るの。これは命令」
「そ、そんなぁ…。それで見るなってのは難しいです」
「偶然見ちゃうことは仕方ない…かな」