偽装と協力の話(2)
「長門くん。ちゃんとして。そんな事では、いつかバレるわ」
昼休み。
天城と交際が始まって三日経った。
いつも通り、四人で学生食堂を利用して昼食をとる事になり、先に注文を終えて、受け取った俺と天城は、4人掛けテーブル席について大和と灯里を待つ。
「……わかってるよ」
「しっかりしてよね。ほら、二人戻ってくるわ」
灯里と大和がお盆を持って対面の席に並んで座る。
「ごめん、おまたせ。A定食人気過ぎー」
「ふふっ、灯里。気にしないで。ねえ、それより今度、四人でデートしましょう?」
「おお、いいね!ダブルデートだね」
灯里と天城が勝手に盛り上がってる。
「え〜、めんどくさ……ぁッ」
俺が異議申立てようとしたところ、テーブルの陰に隠れて天城に足を踏まれた。痛い。
見ると、天城がこちらを睨んでいた。怖い。
「なによ、嫌なの?ははーん、さては長門、天城さんと初めてのデートは二人きりで……とか思ってたんでしょ。昔から、意外とロマンチストよねー、長門って」
「……そんなんじゃねーし」
灯里が意地悪そうな顔して、にひひと笑う。
その後も、灯里と天城は、俺と大和を無視して勝手に週末の予定を立てていた。
……そんなんじゃない。
俺は、ただ大和と灯里がデートして仲睦まじくしている姿を見たくないだけだ。
隣を見ると、楽しそうに笑う天城の姿が目に映る。
こいつは、平気なんだろうか。
天城は、大和のことが好きなはずだ。
大和が灯里と手を繋ぎ、肩を寄せ合って、笑い合う姿を見て、何も感じないんだろうか。
……いっそ、その目に焼き付けて、思い知ればいい。
この二人の間に、誰かが入る余地などない事を。
「ねえ、聞いてる?」
「えっ?」
気づくと天城がまた、こちらを睨んでいた。
「だから、週末デート。水族館に行くことになったから。『協力』してくれるのよね?」
「あ、ああ。わかった」
そう答えると、天城は満足したのか、灯里との会話に戻った。
協力、か。
天城は、ひとつ勘違いをしている。
俺は天城に協力するつもりなど毛頭ない。
天城の“恋人ごっこ”に付き合う事にしたし、俺たちが恋人同士になる事で、以前より、大和を含め俺たちとの親密度が上がったのは間違いないだろう。
だが、それだけだ。
俺と恋人同士でいる限り、天城が大和と結ばれることは無い。
なぜなら、大和は親友である俺の恋人に、決して手を出したりはしないからだ。
これが、俺が天城と付き合う理由。
協力すると見せかけて邪魔を、いや、邪魔をするまでもない。
このまま、何もしなくても、天城は自分で掘った墓穴にハマるだけだ。
そして、そのことを俺が天城に教えてやる義理はない。