恋人と友達と幼馴染の関係(4)
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俺たちの入学した大学は、医療系の国家資格を目的とした学校だった。
講義を受け、単位を取って、四年後の三月に国家試験を受験し、晴れて卒業となる。
入学式の次の日から、さっそく講義は始まった。
教室に入った時に、天城の姿を見つけた時には驚いた。
まさか同じ学科だとは思わなかった。
天城も目を丸くして驚いた様子で、偶然の再会を俺たちは祝った。
そこまではよかった。
「ねえ、大和くん。さっきの講義のここ、ノート見せてくれない?」
「大和くん、もしかしてピーマン苦手なの?ふふっ、子供みたいね」
「大和くん。近くに素敵な喫茶店を見つけたの。帰りに寄っていかない?ああ、もちろん灯里も一緒に行こ」
再会後、俺たちは四人で行動することが多くなったわけだが、天城と大和の距離が近い。
というか、グイグイ来る。
明らかに、天城は大和を狙っていた。
大和は迷惑そうにしてみせるも、優しい性格ゆえ他人を邪険にする事ができない奴だ。
灯里も、二人の会話に割って入るなど牽制してみせてはいるが、あまり強くは言えないでいるようだった。
これまでも、こういうことはあった。
だが、誰もが大和の素っ気ない素振りと、灯里との親密さを見て、諦めて離れていった。
天城は諦めなかった。
どんなメンタルだよ。逆にすげぇよ。
これで、灯里を邪魔者扱いでもしようものなら、大和も灯里も強く出られるんだろうが、天城は大和に対する好意こそ隠さないが、明らかな敵意は見せなかった。
灯里に対しても、友達として仲良くなろうと好意的でい続けている。
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「天城、少し話せるか?」
本日最後の講義が終わり、俺は天城に声をかけた。
「いいけど、大和くんたちは?」
「大和と灯里には、先に帰ってもらうよう言ってある」
天城が、大和たちに視線を向けた。
ちょうど二人が教室を出て行くところだった。
「……それで、長門くん。なにか用なの?」
天城が諦めたように、こちらに向き直る。
俺は、天城の隣に座った。
「天城、お前どういうつもりだよ」
「どうって?」
「大和のことだ。わかるだろ、灯里と付き合ってる。もう少し気を遣えよ」
俺は、このまま三人の関係性を壊されるのを、黙って見ているつもりはない。
あの二人が言えないなら、俺が言うしかないだろう。
「灯里と付き合ってるのは、もちろん知ってるわよ」
「だったら……」
「でも、それは、私が大和くんと仲良くしてはいけない理由にはならないわ」
「……それは……」
そう、なのか?
いや、駄目だろ……うん?駄目、じゃないのか?
あれ……?
「と、とにかく。二人にちょっかいかけるのは、やめてくれ。迷惑だ」
「ちょっかいなんて、かけてないわ。ただ、あの二人と仲良くなりたいだけよ。その証拠に、私は灯里のことも友達だって思ってるし」
しれっと、悪びれることもなく、天城は真っ直ぐこちらを見て答えた。
そう。厄介なことに、天城は大和を奪おうとしていない。
ただ、仲良くなろうとしているに過ぎない。
天城の、その大きな瞳には、少しの後ろめたさもない。
自信があるのだろう。
生まれ持った美貌に。世の中の男たちは、側にいるだけで、自然と自分に惹かれるという自負があるのだ。
「……わかった。確かに、友達として、ただ仲良くなろうとする天城の行動に、俺が口出しする権利はないな」
「わかってもらえて嬉しいわ」
勝ち誇ったように微笑する、そんな顔さえ綺麗に映る。美人は得だな。
「お前も、俺に口出しする権利はない」
「……どういうこと?」
「まあ、すぐにわかるさ」
そう言い残して、俺は席を立ち、教室を後にした。
そっちがその気なら、こちらも手段を考える、ということだ。