恋人と友達と幼馴染の関係(2)
大学から最寄りの駅内にあるハンバーガーチェーン店は、入学式を終えた学生で溢れかえっていた。
注文を終えて、4人掛けテーブルに大和と灯里が並んで座り、必然的に向かえの席に俺は陣取る。
「学校楽しみだね」とか「あの坂道を、これから四年間は通わなきゃならないのは気が滅入るな」とか、談笑しながらハンバーガーを頬張った。
「大和、それひと口ちょうだい?」
「ああ。灯里のは、なに頼んだ?」
「チキンたつた。食べる?」
なんて言って、お互いのハンバーガーを交換したり。
もはや、見慣れた光景だ。
ボーッとその様子を見ていると、灯里がハンバーガーを持った手をこちらに伸ばしてきた。
「ほら、長門も。ひと口食べる?」
「いや。俺はいいよ」
「あっそう」と言って、特に気にするでもなく灯里はまた大和に肩を寄せ合い、顔の近い位置で笑い合う。
高1の夏くらいまでは、こんな人目もはばからずイチャイチャしたりはしなかった。
まだお互いに照れがあったか、一緒にいる俺への配慮か、一定の距離があったように思える。
だけど、秋を過ぎる頃にはグッと距離が縮まったような気がした。
それが何を意味するかなんて、考えるだけ無駄だし知りたくもない。
騒がしい店内に目を向けると、学校の最寄り駅ということもあり、自分たちと同じような入学式帰りの学生と思しき人たちが席を埋めていた。
「ここ、座っていいかしら?」
聞こえてきた声に、目を向け、思わずギョッとした。
めっちゃ美人。緩く巻いた長い髪、切れ長の瞳、よく通った鼻筋。透き通るような肌つや。クールビューティーってやつか。
テレビで見るアナウンサーやモデルみたいな、少なくとも俺が生きてきた中で見た人類では、間違いなく一番の美貌。いや、それだけじゃない。なんだか懐かしいような、以前、どこかで、
「……あの」
「あ、ああ!すみません、どうぞ」
そう言って、空いてる隣の席を譲る。
訝しげに眉間にシワを寄せる、その表情さえ、いちいち魅力的に映る。つい、見とれて返事をするのも忘れてしまっていた。
「……ありが」
とう、と言って席につこうと、腰を落としかけた態勢で、今度はその女性が、ギョッとした表情のまま固まった。
その瞳は、正面に座る大和に張り付いて大きく見開かれている。
「武蔵!!」
突然、大きな声で叫んで女性がガタンと立ち上がる。
目に涙を浮かべ、両手を口元に当てて、わなわなと震え始めた。
次の瞬間、茶色がかった長い髪をなびかせて、飛びつくように、大和に抱きついた。
「え?」「は?」「ええーっ!?」
大和と俺と灯里が同時に声を上げ、お互いに視線を交わす。
突然の事態に、開いた口が塞がらない。
その様子に、店内にいる客たちから、こちらを遠巻きに見ながらヒソヒソと「なにあれ?」「痴情のもつれ?」「修羅場ってやつー?」「あの人綺麗ー」などと勝手なことを言う声が聞こえて、ようやく我を取り戻した。
「……誰なの?」
「いや、知らんし!俺は潔白だ!待って、灯里。なにその目は」
「さっすが大和さん。俺たちに出来ないことをやってのけるー」
「おい、長門ー!いやいやいや、だから誤解だって!」
泣きついた女性が顔を上げた。
鼻を真っ赤にして、子供みたいに号泣している。
「……武蔵」
「いや、だから、お姉さん。人違いですって!俺の名前は藤ノ木大和、そんな昔の剣豪みたいな名前じゃないんで!」