クリスマスパーティ(1/5)
パルフェ学園のクリスマスパーティは例年通り開催された。
ヴィオレッタは正直、行きたいとは思っていなかった。学園をあらぬ疑いで追われたあとの参加だからだ。直接的な嫌がらせをされたりはしなくても、楽しいイベントにはならないだろう。
しかも誘ってきた人間が、ヴィオレッタを学園から追い出した張本人、主人公のユヅキときた。
ヴィオレッタは学園のパーティイベントでいつも着ていた、淡いスミレ色のカクテルドレスに、新しく銀色のラメが入ったリボンとレースを付け足して、いつも頭に挿しているすみれの花にも白いリボンをあしらった。
大公爵家のご令嬢が同じドレスを着回すことは本来あんまりないのであるが、乙女ゲーはキャラが増えるごとに用意しなければならないパーツの量が膨大なのもあって、ヴィオレッタのドレスも三年間同じだった。
――校則で決まっているのよね。家の間で格差が出すぎないように、参加者が持ち込んでもいいパーティドレスも一着だけ、それも簡素なカクテルドレスに限られていたわ。
ヴィオレッタは学園を退学した身だが、郷に入っては郷に従えというやつだ。
さすがにまるっきり同じというのも芸がないので、ユヅキの助言に従って多少のリメイクを加えた。
――ユヅキ様、紫一色はお気に召さないとおっしゃってましたものね。
見え透いたご機嫌取りだが、何もしないよりはマシだろうとヴィオレッタは考えた。
パーティ会場で出くわすなり、ユヅキは歓声を上げた。
「ヴィオ、かっわいい! うんうん。ヴィオはやっぱり白っぽい色が似合うよねぇ」
「ユヅキ様は何でもお似合いになりますけれど、白も素敵ですわね」
ユヅキの白いワンピースタイプのドレスは清楚系のイメージど真ん中でありつつ、コルセット風の金の飾り紐で胸元をさりげなく強調する悩ましいデザインだった。
これも原作乙女ゲーで選択できるドレスだが、この清楚なドレスが似合ってしまうのだから、やはり乙女ゲーの主人公はどんなに容姿が普通だと作中で描写されていても素材がいい。常人とは土台が違うのだ。
「見て見て? みんな私たちに注目してるよ。ああ、いい気分」
虫も殺さぬ正統派の美少女顏をうっとりとただならぬ表情にゆがませているユヅキ。
ヴィオレッタには少し不気味だったが、そんな表情も男性陣には魅力的に見えるらしく、視線がさざ波のように寄せては返す。
「ヴィオは美人だけど、男受けがいいのはやっぱり私の方だよねぇ。ヴィオのそういうところ超好き。パルフェの女子キャラで連れて歩くなら断然ヴィオだと思ってた」
失礼なことを言われているが、ヴィオレッタは笑顔で流した。
――ここまで失礼だと、逆にあんまり腹が立たないのは何でなのかしら……
自分が一番大好きなのを極めるとある種の強いボスキャラ的な風格が漂うものなのだなと、ヴィオレッタは変なところで感心してしまった。
「まあ、お久しぶりですわ、ヴィオレッタ様! ……と……ユヅキ様も、ごきげんよう」
声をかけてきてくれたのはコロネだった。ワッフルや、他の令嬢たちもいる。
全員、そろって戸惑ったように、ユヅキを見ている。
どうしてヴィオレッタがユヅキと同伴でパーティに参加しているのかと、その目が訴えていた。
「ヴィオは私の王子様役だから、今日は遠慮してくださる?」
ユヅキがトンチキなことを言い、ヴィオレッタの腕にすがりついて、べーっと舌を出した。
「……またね、皆さん」
ヴィオレッタが軽く手を振ると、彼女たちは簡単に引き下がった。
「ブスの相手なんかしてる暇ないんだよねぇ。私今日だけで十五人と踊らないといけないからさぁ。はー、忙しい」
「十五人……」
「そうだよ、忙しいんだよ。逆ハーエンドだから」
――タフねえ。
ヴィオレッタは心の底から呆れた。
それだけ忙しいのにヴィオレッタまで攻略しようとしているのだから、すごい子だ。
そのうちにダンスの始まりが告げられる。
「それじゃ、最初の一曲はヴィオに踊ってもらおうかな」
女性同士で踊ることも本来ならありえないのであるが、パルフェ学園ではオーケーなのだった。
――ほんと、何でもありよね、このゲーム。
「男性役お願いしてもいい?」
「お任せくださいませ」
ゲーム本編が終わったからか、舞踊スキルも155と、学園にいたころよりも少し上がっている。ヴィオレッタには才能があるのか、特別練習していなくてもどんどん上昇するのだ。
ユヅキの舞踊スキルも現時点で180越えしており、組んで踊るとなかなか気持ちがよかった。すいすいと進みすぎるせいか、周囲の人が遠慮して場所を空けてくれるほど、ピッタリと息が合った。
広々とした空間に、ユヅキのドレスの裳裾が翻る。
いつしかギャラリーができており、終わったときには拍手まで巻き起こった。
学園でも人気者のユヅキはあっという間に男子生徒に取り囲まれてしまう。
その中に、トロピコとアズライトもいた。
――あ、そうだわ。アズライト様とも踊らないと。
ステータスウィンドウを確認する限りでは、アズライトからヴィオレッタへの好感度はいまだにマイナスを振り切っている。
これをどうにかして友人よりちょっと他人くらいの好感度まで上げなければならないと、こないだ心に誓ったばかりなのだった。
ユヅキは取り巻きの男子生徒からの予約を取りつけるのに夢中になっている。
手持無沙汰ぎみに囲いを作っているトロピコとアズライトのところに、ヴィオレッタはのこのこと近寄っていった。
「ごきげんよう、おふたりとも。よかったら、わたくしとも踊ってくださらない?」
「わあ、ヴィオレッタ嬢! もちろんだよ!」
トロピコは飛び上がって喜んでくれたが、アズライトは面白くなさそうな顏でヴィオレッタを見ている。
「アズライト様も、踊ってくださいますわよね?」
ヴィオレッタが念押しをすると、彼はぎょっと目をむいた。
「え? ……お、俺?」
「ええ。何か問題があって?」
アズライトは見るからに挙動不審だ。
ヴィオレッタが開いておいたステータスウィンドウ内で、好感度の数値が動いた。
――プラス10……20……あれ、ずいぶんとまた上がるわね。
友人未満ぐらいの数値になればいいかなと思っていたが、一気に30まで行ってしまった。これはそろそろ気の合うクラスメイトという感覚を抱き始める数値だ。
「……ヴィオレッタ嬢は、シュガー公爵家の方ではありませんか。なんでまた王党派の俺と踊ろうとするんですか?」
彼は百面相中のお顔を片手で隠して、無理やり声を上げた。ちょっと上ずっていたのを、ヴィオレッタは聞き逃さなかった。
「お父様が誰だろうと関係ありませんでしょ。わたくしが踊りたい方と踊ってなにがいけませんの?」
アズライトはどう見ても嬉しそうだった。
しかし彼は怖い顔を作ってつーんと横を向いた。
「俺は現王家派なんで、アルテス王子がヴィオレッタ嬢を許したと分かるまでは、公式の場で踊るつもりはありません! ヴィオレッタ嬢も、少しはものを考えて踊る相手を選んではどうですか!?」
彼の言うことは一応理に適っていた。
しかしこの何でもアリアリな適当世界でそれを言われると結構ムカつくものがある。
――好感度はそこそこ上がったようだし、もう放置しておこうかしら?
「あら、そう。では、トロピコ様だけ、お願いできます?」
ヴィオレッタが手のひらを返すと、アズライトのステータスウィンドウ内でまた好感度がだだ下がりした。せっかく30までいったのに、マイナス50くらいまで急降下してしまったのである。
――なんなの、面倒くさいわね、もう。
心優しい彼の友人は、そんなふたりを放っておかなかった。
「アルテス殿下には僕からもお願いするよ! ヴィオレッタ嬢、殿下と踊ってもらおう?」




