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ティーサロン・三日目 主人公 (2/3)


 そうだ。よく考えるべきだった。


 アルテスの人気はすごいが、ティグレの人気もまたすごい。

 しかもこのふたりは、幼馴染の関係なので、アルテスとティグレのセットで好きだという人もかなりいる。


 アルテスと仲良くしていれば、ティグレが主人への忠誠心と嫉妬心で板挟みになっている苦しい心情を吐露し、ティグレと仲良くしていればアルテスがそのときだけは完璧な王子様の性格を崩してやきもちを焼く。


 転生主人公のユヅキがアルテス狙いならば、セットでティグレも狙ってくるかもしれないということも考えておかなきゃいけなかったのに。


「まあ、私、ティグレ本命じゃないからさ。体育会系の部活もやってなかったし、『騎士勲章』取れなくてもクリアできるようにしてたから、別にいいんだけどね。でも、ヴィオレッタがそれを持っているとなると話は別。ヴィオって、ティグレが本命だったの?」

「い、いいいええええ!! 全然! 全然違いますことよ!」


 ユヅキの目が怖い。


 あれを見れば、別にいいんだけど、と言いながらも、実は全然いいと思ってないことが分かる。


 わざわざ手間暇かけて攻略するほど好きなわけじゃない。

 でも、自分以外の人間に手を出されるのも面白くない。


 ユヅキが言いたいのはそういうことだろうとヴィオレッタは敏感に察した。


「あれはティグレが悪いのでございます! いきなりわたくしのサロンに押し寄せて店先を破壊するなど迷惑行為をしたので、懲らしめてさしあげたのですわ! そうしたらお詫びにと置いていったのです! 恋愛的な意味はかけらもございませんわ!」

「なぁーんだ、そっかぁー。そうだと思ってた。ヴィオって全然ティグレのストライクゾーンじゃないもんね」


 ユヅキは自分の逆ハー王国をおびやかす外敵――つまり、ヴィオレッタ――を、冷たい目で見据えた。


「あ~よかったぁ。もしもヴィオがティグレ狙いだったら、処分しないといけないところだったからさ」


 ――処分ってなに!?


 何をするつもりなのかと思い、ヴィオレッタは三度目の悪寒を覚えた。


「じゃあ、『騎士勲章』、返してくれる? ヴィオにはいらないものだよね?」


 彼女に従った方がいいのは分かっていたが、ヴィオレッタはためらった。


「人からいただいたものを無断でまた人に渡すのは気が引けますわ」

「分かる~。でも、それ私が持ってないと何か不具合起きるかもしれないじゃん? 不具合起きたら、ヴィオも処理しないといけなくなるし。友達の処分は心が痛むな~」


 まるで人の痛みが理解できなさそうな棒読みでそう言われて、ヴィオレッタは瞬時に迷いを捨てた。


「お部屋にあったと思いますわ。今取ってまいりますわね」


 ――命は惜しいわ。許してね、ティグレ。


 ヴィオレッタがダッシュで『騎士勲章』を取って庭に戻ってくると、ユヅキは笑顔で受け取った。


「ありがとう! あ、このことは私からティグレに伝えておくね。ゴミを押しつけられて迷惑って言ってたから私がもらってきたって言えばティグレも納得するでしょ」


 ――そ、それはいくらティグレでも傷つくんじゃないかしら?


 さすがのヴィオレッタも、人が大切にしているものをゴミ呼ばわりするほど無神経ではない。


 しかし、ここは下手に逆らわず、ユヅキが満足するように振る舞った方がいいのだろう。


「ありがとう! あ、そうだ。あなたのあの薄紫モーヴのサロン、すっごいダサいからやめた方がいいよ。原作のヴィオも何かって言うと紫色一色だったけど、あれはないわー」

「そ、そうですわね……」


 あれはすみれ色とヴィオレッタを関連付けて覚えてもらうための措置なのであって、おしゃれは二の次である。


 そうは思ったが、余計なことは言わないようにしようと心に誓うヴィオレッタだった。


「白か灰色か、もしくは銀色をベースにした方がいいんじゃない? 紫はポイント使いするからかわいいんであって、ベースカラーにして真紫の服を着てるとちょっとアレな人に見える。まあ、ヴィオがそもそもアレな悪役だったんだけどさ」


 原作ヴィオレッタ全否定である。


 ――この子、本当にヴィオレッタ推しなのかしら?


 ここまで失礼だと、どうもキャラが人間として好きというよりも、『自分の思い通りに動く可愛い女友達』が好きなように見える。ヴィオレッタのことも自分のファッションアイテムの一部だと思っているのだろうか?


 その人にはその人なりの考えがあり、たとえ自分と同じ考え方、価値観でなかったとしても、その人の生きてきた歴史含めて尊重する、といったような、人付き合いで当然あるべき感覚がユヅキには丸ごと欠落している。


「参考になりますわ」

「うんうん。ヴィオが話の分かる子でよかったよ。それじゃまた来るね」

「え!?」

「なに。来たらダメ?」

「いいえ! 首を長くしてお待ちしておりますわ!」


 二度と来てほしくないと思う気持ちをこらえて、ヴィオレッタは一生懸命ユヅキと握手した。


***


 ――とんでもない目に遭ったわ……


 ヴィオレッタはサロンの片づけ途中にユヅキのことを思い出し、またため息をついた。


 ――あの子があの調子で毎週来るようになったら地獄ね……


 どうしたものかと考えていたとき、ふと通りに辻馬車が止まるのが窓から見えた。


 ――あら? あれはもしかして、エマ様?


 今日は先週よりいちだんと遅い。


 閉まっている門を見て、がっくりとうなだれているエマに向かって、ヴィオレッタは気づくと窓から身を乗り出し、声をかけていた。


「エマ様!」

「ヴィオレッタ嬢! すみません、今日も遅くなってしまって……」

「お茶菓子はまだございますのよ、よかったら召し上がっていって」


 ユヅキとのことで心が弱っていたので、話し相手がほしいヴィオレッタだった。


 エマにお茶を出し、ひと段落した後。


「今日は学園の生徒さんがいらっしゃったのですけれど、ワガママをおっしゃるから大変でしたわ」


 ヴィオレッタが当たり障りのない範囲で愚痴を言うと、エマはふとお菓子を食べる手を止めた。


「ヴィオレッタ嬢は、あの学園で一番身分が高い女性でしたよね?」

「え? ええ……アルテス王子の次がわたくしですから、そうですわね」

「ヴィオレッタ嬢にワガママが言える女性なんているんですか?」


 いやしないのだが、いることにしておいてもらわないと愚痴が言えない。


 どうしたものかと思っているヴィオレッタに、エマが言う。


「それってあの有名な聖女候補のユヅキ嬢のことですか?」


 あっさりバレてしまった。


「そうですわ。わたくしを学園から追い出しておいて、今度は友達になりましょうっておっしゃるんですのよ。訳が分かりませんわ」


 ヴィオレッタが白状すると、エマは共感してくれたように、痛ましげな顔をした。


「それは困りましたね……」


 ――いい人ね。


 彼もまたユヅキの信奉者だったら、もうすっぱり愚痴を言うのは諦めようと思ってのカミングアウトだった。


 でも、どうやらそうではないようだ。


「ヴィオレッタ嬢は、ユヅキ嬢に何か弱みでも握られているんですか? 以前からずっとユヅキ嬢にだけはやりたい放題されてますよね」

「彼女には特別な加護がついているのですわ……」

「特別な加護?」


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