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2.ミノタウロスの心配事

 吾輩は魔王である。皆が「魔王様」と呼ぶので誰もが認める魔王なのである。

 この間勇者が現れてから少し忙しくなった。吾輩に指示を求める魔物が増えたからである。

 とりあえず指示を求められたら「勇者を倒すのだ」と言うことにしている。吾輩の側近もそれでよいと言うので間違ってはいないのだろう。

 今日もまた、一体の魔物が吾輩の元にやってきた。


「魔王様、お時間よろしいでしょうか?」

「ミノタウロスか。何用だ?」


 どうせまた勇者のことだろう。一言で充分だ。


「最近、我が同胞が人間に食べられるという話が多くてですね……どうしたものかと相談したいのです」

「勇者を……え? それは勇者に食べられたということか?」

「いえ、相手は冒険者と名乗る人間だそうです」


 何それ怖い。

 人間には勇者以外にも脅威となりえる存在がいるのか。

 そもそも魔物を食べる人間が存在するところからして恐ろしい。動物とは違うのだぞ。

 ミノタウロスの姿を確認する。確かに牛頭ではあるのだが……だからといって牛そのものではない。それに胴体なんて人間に近いではないか。


「ちなみにだが、食べられるというのはどこまでだ? 頭だけとか」

「いいえ、全身余すとこなく食べられます」

「な、何ィッ!?」


 全身だと!? 首から下は筋骨隆々の人間の体に近い。なのに全部食べられてしまうとは。人間は同族を食べることに躊躇いはないのか!?

 いや、ミノタウロスと人間は違うが。違うのだが何か思うことはないのだろうか。

 それとも人間は魔物を食べなければならないほどに困窮しているのだろうか。だとしたら致し方ないのかもしれない。


「人間は魔物を食べなければならないほどに貧困だということか」

「いいえ、人間の食物は豊富です。家畜もたくさんいるようです」

「何!? ならばなぜ貴様等を喰らう必要がある!?」

「ええ、人間にとって我らはとても美味だそうです」

「美味……?」

「冒険者どもの話では我らは肉の宝庫なのだそうです」

「……」


 もう一度ミノタウロスを見つめる。困り顔の牛顔だった。

 吾輩にはどうしても食用には見えない。一片たりとも食欲が湧くことはない。

 魔物ですら食べ物扱いとは。人間とは罪深い生き物なのだな。

 もしかして、吾輩も勇者に倒されてしまったら人間どもに食べられてしまうのだろうか?


「……っ」


 それを想像すると身震いが止まらなくなった。

 人間怖い、超怖い。


「う、うむ。貴様の心配はよくわかった。……ほとぼりが冷めるまでこの魔王城でかくまってやろう」

「魔王様、ありがとうございます」


 ミノタウロスは何度も頭を下げた。ちょっと涙目だった。よほど怖かったのだろう。話を聞いただけの吾輩ですら恐怖を感じたのだ。無理もない。

 警戒するのは勇者だけではない。それがわかっただけでも収穫か。やはり部下から話を聞くことは魔王として大切なことなのだな。



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