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1.ゴブリンが言うことを聞いてくれない

 吾輩は魔王である。名前などいらない。

 皆が「魔王様」と呼ぶものだから自分の名前があったのかどうかさえわからなくなってしまった。魔王と呼ばれたら吾輩も反応するのでまあいいかと思うことにした。

 魔王といえば魔物の王。つまりは吾輩に逆らえる魔物なんていないということなのだ。

 ……そのはずなんだがなぁ。


「おいそこのゴブリン」

「何ですか魔王様」

「貴様はこの間現れたという勇者を倒すために出立したのではなかったか? なぜここにいる」


 ゴブリン。魔物の中でも小さい存在だ。下手をすればその辺の人間相手にもやられてしまう。誰もがザコと認識しているだろう。


「魔王様、俺達ゴブリンはそれはもう弱い存在なんですよ」

「ああ、そうだな」

「そんな俺達が勇者の元に行けばどうなりますか?」

「え? それは……」

「やられちまうんですよ。そりゃもういい経験値稼ぎです」

「け、経験値?」

「そうです経験値です。ある一定の経験値を稼げば勇者はレベルアップします」

「え、レベルアップって何?」

「強くなるということですよ。いいんですか? 弱い勇者が強くなっちゃいますよ」


 それはよくない。

 だが、だからといって誰かがいかなければ勇者を倒せないのだ。それは困る。


「ならば弱いうちに貴様が勇者を倒してしまえばいいではないか」

 ゴブリンはやれやれと肩をすくめる。


「何を聞いていたんですか魔王様。俺達ゴブリンは弱いと言いましたよね? 人数がいれば勇者どころか村人にすらやられちゃいますよ」

「あ、ああ……そうなのか?」

「そうです。俺達ゴブリンはか弱い存在なんです。そんな俺達が勇者と戦ったって意味がないんですよ。むしろ勇者からしたらおいしいことこの上ない」

「な、なぜだ?」

「だからちゃんと話聞いてました? 勇者の経験値になるんですって。このまま行かせたって勇者が強くなるための生贄にしかならないですよ」

「で、ではどうするのだ? 貴様等ゴブリンの仕事は勇者が弱い時にしかないぞ」


 ゴブリンは深い深いため息をついた。


「いいですか魔王様。魔物は他にもたくさんいます。もっと強い魔物を勇者がまだ強くなっていないうちに送り込むのです。それだけで勇者は詰みです」

「なるほど……。で、貴様等はどうするのだ?」

「魔王様。俺達が行ったところで勇者の経験値になることは理解しましたよね」

「う、うむ」

「だったら、勇者を強くしないためにも俺達ゴブリンはこの魔王城でかくまうべきなのです。そうすれば勇者は強くなれない!」

「そうなのか!?」


 雷が落ちたような衝撃を受けた。

 なるほど。ゴブリンの意見にも一理ある。これは聞いてよかった。

 やはり魔王たるもの、部下の声を聞いておかねばなるまいということか。


「わかった。貴様の意見を受け入れよう」

「わかっていただけて何よりです。あ、城の警備はしますので三食しっかりお願いしますよ」

「うむ。食事係に伝えておこう」


 こうしてゴブリンは勇者を倒しに行くことなく魔王城に居続けた。

 その後、しばらくしてから吾輩の側近にそのことに対して怒られてしまうのはまた別の話である。



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