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最終話

 01


 俺は真梨亜を自宅に送ったあと、桜ヶ丘駅に向かった。

 駅前は昔と変わらず授業終わりの桜ヶ丘高校生で溢れていた。

 懐かしいなぁ、真梨亜と初デートの時もここを待ち合わせ場所にしていたことを思い出す。

 ……余韻に浸っている場合じゃなかったな、今から俺は神に会いにいくんだから。


 桜ヶ丘駅から一駅、二駅超えたところにある三日之神の神社跡、真梨亜と最初に訪れた時は誰かが壊したのかと疑っていたが今思うとあれは人が壊せる大きさではない。

 もし、壊そうとするなら業者を呼んでやるはずだ。

 でも呼んだ形跡はない、そうなると神社を壊したのは一人に絞られる。

 赤城ではない、奴は三日之神を知っていたが真梨亜たちが三日之神の能力(呪い)を持っていたことには気づいていなかった。


「……竜宮寺さん、何故貴方は真梨亜たちを巻き込んだんだ」


 神社跡がある駅に着いた途端、俺は現実世界から隔離された。

 俺と同じように駅のホームに足を踏み入れた人たちはまるで動力源となる命を奪われたのか、動くことを辞めていた。

 以前も同じような光景を見たことがある。


「随分逞しくなりましたね、工藤さん」


 いつの間にか竜宮寺さんは俺の目の前に立っていた。

 俺の方から向かおうとしていたのにそっちから来るとはな、手間が省けて良かった。


「俺と話をしましょう、竜宮寺さん」


 俺の体は竜宮寺さんがこちらに向かっている音を聞いてるだけで悲鳴をあげている。

 ……能力(呪い)事件の真実を知らなきゃ俺と真梨亜は永久保存に幸せになることは出来ない。



 02



「竜宮寺さん、貴方はどうして真梨亜だけではなく東雲たちを自分の理想のために巻き込んだんですか」



 竜宮寺さんが話す前に俺は自分が知りたいことを話す。

 彼女は誰よりも真梨亜を大事にしていることがわかっていた、真梨亜がひとりぼっちでいた時もずっと傍にいたのは竜宮寺さんだ。

 一人の少女を幸せにするために頑張っていた人がどうして他の少女たちを不幸にさせたのか。

 西久保、小日向詩織、東雲薫、叶枝、全員真梨亜と何らかのところで関わっていた。

 詩織は真梨亜の後輩、東雲は能力(呪い)が発現する前に真梨亜と少しだけ会話をしたことがある、叶枝は委員会の委員長を集めた会議で挨拶をした、西久保は周りの人間に真梨亜を崇めさせるために嘘の武勇伝を作った。

 何かしらの意図があるに違いない。


「あの子は自分の身を犠牲にしてでも他人を助けようとするでしょう、でも一人だと体力が持ちませんよね? なので私は真梨亜を手助けをする人を作ることにしました。東雲さんたちの能力(呪い)は真梨亜を救うための手段でしかありませんよ」


 その言葉を聞いて怒りで我を忘れそうになったが、俺は三日之神として覚醒した竜宮寺さんを隔離するための屋敷に行ったときのことを思い出した。

 あの時、頭に小さい頃の俺と……死んだ母親が屋敷に来ていた映像が流れこんできた。

 まさか……


「俺の能力は竜宮寺さんからもらったんですか?」



「ええ……工藤さんのお母様は私の元に訪れた時、赤城によって精神を病んでいた貴方を守る能力を欲しいと頼んできました。私は自分の計画に合う人間が出てきたと考え、お母様が望んだ能力を工藤さんに授けました。工藤さんは私の理想通りに真梨亜の手助けをしてくれましたね、真梨亜は貴方と過ごしているうちに自分も他の女の子と同じように幸せを望んでも良いと考えるようになりました。全部私が描いたシナリオ通りなんですよ」


 確かに俺は母さんや竜宮寺さんのおかげで外面が良い悪い人間を嘘を見抜く能力で識別することができた。

 だけどその分、人と関わることをやめてしまった。

 人と関わらなくなったところで俺は真梨亜と出会い、悩みを抱えた少女たちを能力で救ってきた。

 竜宮寺さんは真梨亜のことを思って綿密に計画を立ててきた。

 だけど他人を巻き込む必要はあったのか?

 いくつもの方法をやり尽くしたと言っていたけど、竜宮寺さんは一つだけ見落としているものがある。


「東雲たちの能力(呪い)は自身を成長させるものだった、でも体や精神は蝕む。竜宮寺さん、真梨亜は他の誰よりも誰かが傷つくのは嫌がる。長年いっしょにいるのにそんなことも分からなかったんですか?」



「っ、知ったような口を聞かないでください! 私は貴方よりも真梨亜のことを知っています!」



「分かりました。じゃあ聞きますよ、何で真梨亜と父親の関係を知りながら改善しようと考えなかったんですか? 神様なら力を使って変えることも出来たはず」


 余裕が無くなってきたのか竜宮寺さんは床に座り込んでしまった。


「……私は真梨亜と正和さんの関係を生前の自分と重ねてしまったんです。幼いながらもあの子の健気に頑張る姿を見た私は出来る限りは支えてあげよう決めたんです。二人の関係を良くしようと思ったことはありますよ、でも余計なことをして私はもっと関係を悪化させてしまった……私はその事実から逃げるように誰かを巻き込む形で真梨亜を幸せにしようと思いました。どこで私は間違えたんですかね?」


 竜宮寺さんは三日之神として最初に出会ったころよりも人間らしい感情を露わにしていた。

 誰かのために泣ける人は例え人間ではなくても美しい。

 人間は完璧じゃないから間違いは犯すことある、それと同じように神様だって間違える時もある。

 だから俺は自分の今思っていることを素直に言う。


「竜宮寺さん、こんな時が止まった世界で一人でいても寂しいだけです。俺といっしょに真梨亜のところに言って隠していたことを話しましょう」


 俺も真梨亜に自分の過去は話していない。

 いつ話すか迷っていたけど竜宮寺さんがいるなら心強い。


「……真梨亜は私を蔑まないでしょうか?」



「ずっと真梨亜の傍にいたならもうアイツの性格はわかっていますよね」


 竜宮寺さんは覚悟を決めたのか、立ち上がって俺の手を取ってくれた。


「そうですよね、私は真梨亜に全ての真実を話そうと思います」


 歩むべき道を決めた竜宮寺さんの顔は誰よりも輝いて見えていた。

 止まっていた世界は動き出す、きっと立ち止まることはないだろう。


 後日談として、竜宮寺さんと俺は真梨亜に自分たちが隠していた真実を洗いざらい話をした。

 驚きはしていたけど、真梨亜は俺と竜宮寺さんを受け入れてくれた。

 竜宮寺さんは正和の呪いを解き、正和と真梨亜の関係を改善するために俺と協力して動いたおかげで今では仲の良い親子となった。


 もし、人と関わりを持たないで孤独で過ごしている俺と会えるならこう言うだろう。


「幸せは遅れて登場してくるから人生を諦めたらダメだ」


 俺は自分の能力と決別して、真梨亜と竜宮寺さんと三人で未来へと進むんだ。

 その道が幸せで溢れてますように。

一年間私の物語を読んでくださってありがとうございました。

初めて連載を終えることが出来て良かったです。


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