三雲ルート⑬
01
「……あれ、あれ? おかしいですね? そろそろ出ても良い時間なんですけどね」
司会は予定の時間になっても俺たちが登場していないことに戸惑っていた。
会場内にいる上級国民たちも司会の慌てふためく姿を見てざわつき始めている、動揺しているこの瞬間に紫吹や赤城の弱みが映っている映像を流せば祝う気がない彼らは餌を得たトンビのごとく赤城たちを非難するだろう。
俺は吉澤や山本に合図を出す。
「うわ、なんだ!?」
山本は上から披露宴を見下ろすことができる場所から煙幕を大量に落とす。
百人以上入れる会場は一気に煙で包まれた。
上級国民が混乱している間に俺は紫吹と真梨亜がいる真ん中の方へと走る。
会場内の地図はあらかじめ読んでいたおかげで煙が充満していても、すんなりと辿りつけることが出来た。
吉澤に真梨亜の元についたことをスマホで知らせ、映像を流してもらうように頼む。
ここまでは計画通りに進んでいるから、次は俺が真梨亜を結婚式場から脱出させれば成功だ。
油断しないでいこう。
「ゲホッ、ゲホッなんだ、いったい!?」
紫吹はあろうことか新郎なのに隣にいる真梨亜を見捨てて、自分だけで逃げようとしていたのを見てすかさず俺は蹴りを入れる。
コイツ……もっと時間あればぶん殴りたかった。
でもこの場から離れてくれたおかげで真梨亜を連れていくことができる。
「真梨亜、助けに来たよ!」
俺が声をかけても返事は無かった。
……わかっていたことだ、今は煙幕が晴れるまえに移動しなくちゃ。
真梨亜の手を取り、走りだした瞬間に後ろのモニターから声が聞こえ始める。
この声は赤城だな。
最初に流れる映像は赤城が反社会的勢力の人間との会合をしていて、赤城は彼らから資金を持っているターゲットを狙えと言われて了承しているのが映し出されていた。
次にプロデューサーに胡散臭い投資話を電話で話している場面に移り変わる。
これで赤城は終わりだ。
赤城の映像の後に紫吹のが流れ始める。
親や赤城の力を借りて自分好みの女性に酷いことをしていたということを知っていた紫吹財閥の人にインタビューをしていた映像が流れ、会場内から紫吹の情けない悲鳴が響き渡る。
ざまあみろ、クソボンボン!
映像に注目が集まっているおかげで俺と真梨亜は式場の入口まで辿り着くことが出来た。
だが……
「まさか私に反旗を翻すとはね、恐れいったよハジメ」
赤城が仁王立ちして俺たちを待ち構えていた。
くそ、ここまでなのか??
「もうアンタはここで終わりなんだよ、俺と真梨亜はこれから自由になるんだ」
俺は怖いという気持ちを抑えるために真梨亜の手を握ると、真梨亜も同じように握り返してきた。
……負けちゃいられないな。
「私はお前に報復する手段はこれから無くなるだろう、だが一つお前に言いたいことがある。工藤創、三雲真梨亜を本当に幸せにすることができるのか?」
「何が言いたい……」
俺は真梨亜を赤城から遠ざける。
「彼女は三日之神との絆という鎖が繋がっているせいで自由に動けることが出来ない。ハジメ、お前は彼女が拒否を示しても三日之神との繋がりを断つことが出来るか?」
「真梨亜が幸せになれるのなら例え憎まれても出来るさ」
三日之神、竜宮寺さんも真梨亜を幸せにするという目的は俺と一致している。
きっと絆を断ってくれるだろう。
赤城は今までみたことないような晴れやかな顔をして、俺たちの傍を離れていく。
「山本、吉澤。キリが良いところでお前たちも逃げてくれ」
俺は真梨亜と共に牢獄から脱出した。
02
どれぐらい時間が経ったのだろうか、俺と真梨亜は気づいたら海辺にいた。
「……真梨亜、怪我はないか?」
「……」
道中、真梨亜のドレスが切れたりするトラブルがあったりしたが怪我もなく無事に結婚式場から離れることが出来た。
真梨亜は海に移る沈みゆく太陽の姿をずっと眺めていた。
「なあ、真梨亜。これからお前は何がしたい? 幼いころから決められていた結婚もなくなったから、どんなことでも自由に出来るんだ」
真梨亜からの返事を求めずに俺は喋り続ける。
「好きな人とデートしたり、友達と恋バナしたり遊べたりするんだ。誰も真梨亜を咎める人なんていない」
「可能性が広がるというのは嬉しいことなんだ、だから真梨亜……」
気がつくと俺は涙を零していた。
人をここまで大事だと思ったのは真梨亜が初めてだ、友達として守りたいとかではない。
初めて会った時から俺は真梨亜が好きなんだ、自分を犠牲にしてまで困っている人を助けようとしているところに惹かれた。
「真梨亜が自由に羽ばたく姿を傍で一生見させてくれないか?」
「……もちろん、私がおばあちゃんになるまでずっと傍にいてね」
真梨亜の目には太陽が映っていた。
俺は感極まって真梨亜に抱きつく。
色々あれなところが手に触れているが今は関係ない、真梨亜が意識を取り戻してくれただけで嬉しい。
「お帰り、真梨亜」
「ただいま、ハジメくん」
俺は素直に自分の気持ちを話した。




