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三雲ルート⑪

 01


「叶枝、お前……」


 叶枝の姿は時間が経つにつれ、周囲の景色に同化しかけていた。

 俺はどうにかして叶枝を助けたいと思っても、消えかけている人間を助けるすべはこの世には存在しない。

 神でなければ救うことは出来ないという事実に頭を抱える。

 三日之神……竜宮寺さん。

 貴方なら叶枝は救えるんじゃないんですか?


「ハジメちゃんはいつ私がこの世に存在していないってことがわかったの」


「山本の寮に行った時には気づいてたよ、急いで外に出た時に足が消えていたのが見えてからさ」


 叶枝は俺の言葉を聞いて安心したのか、どうして体が消えかかっているかについて理由を話してくれた。

 苦痛に耐えているわけでもなく、悲しんでる様子でもない叶枝の姿に俺は心苦しかった。

 どうして平気でいられるんだろう?


「そっか……じゃあ本当のことを言っても大丈夫だね」



「本当のこと?」



「私は既にこの世界では存在が無かったことになっているはずだったんだ。ハジメちゃんを守るためにもらった三日之神の力を使いすぎた代償で体が消えかかっていた時に三日之神、竜宮寺さんに問いかけられたんだよね。まだ生きたいか? って、もちろん私はハジメちゃんを守るために産まれてきた女だから答えたよ、生きたいとね。竜宮寺さんは私に一ヶ月間だけ動ける命を授けたおかげでサポートが出来たりしたんだけどもう限界みたい」


 竜宮寺さん、全ての元凶である三日之神がどうして叶枝に力を貸してくれたんだろうか。

 俺はずっと三日之神は生きている人間が憎いから呪いを少年少女に植え付けていると思っていたけど、どうやら考えを改めなくてはいけないみたいだ。

 叶枝が嘘をつくということは有り得ないから竜宮寺さんが何をしたいのかよく分からなくなってきた。


「……もう喋るな叶枝、体が薄くなり始めてる」


 俺たちの話が終わるのを待てないのか、叶枝の体は徐々に薄くなっていた。

 最初は足が半透明になっていただけなのに、今は月の光で叶枝がいるということを確認しなきゃいけないほど人の形を保つことは出来ていない。

 なのに叶枝は表情を崩さずに俺の方へ歩いてきていた。

 もう既に足音すら聞こえない。


「私は……今でもハジメちゃんが心配だけど、三雲さん含めた女の子たちを一人で救ってきたハジメちゃんなら私がいなくても大丈夫そうだね」


 俺は一つの嘘を見抜いた。


「俺はお前がまた俺の傍から消えるのは辛い。だから本音を言ってくれないか、これが最後かもしれないし」


 普通に喋っているはずなのにおれの顔に一滴の涙が伝ってきた。

 叶枝この世から消えていってしまうなら俺は……

 昔と比べると強くなったというところを見せよう。


「私はまだハジメちゃんと生きていきたい、けどね今私がいたら三雲さんは私に嫉妬すると思う。だから身を引くんだよ、完全にこの世界からきえていくわけじゃない。生きていればきっと会えるから泣かないで」


「叶枝だって……泣いているだろ」



「最後まで私といっしょにいてくれてありがとう、ハジメちゃん。……大好きだよ」


 俺は泣いていた叶枝を抱擁し、消えるときまでずっと傍にいた。

 きっとどこかで会える、その言葉を信じて前を向くことにした。


「また会おうな、叶枝」



 02



 作戦当日。

 俺たちは招待状を手にして真莉愛と紫吹が結婚式を行うホテルに向かっていた。

 周りを見渡すと世間で騒がれている有名人や議員などいわゆる上級国民が大勢いた。

 全部赤城と繋がりがある人物ということか。

 誰も敵対しようとは考えたりしないだろうな。


「工藤、吉澤。入口で招待状を渡したあとに従業員しか入れないバックヤードに向かうぞ」


「ああ、わかってるよ。……本当にこの作戦は成功するのかな」


 吉澤が不安になる気持ちもわかる。

 何故なら俺たちは余興の一部と称して怪盗に変装し、演出で会場内を暗くしたあとに真莉愛を奪還しようと考えている。


「成功するって思わなきゃ失敗ばっかりするぞ、一回だけしかないんだ」


 そう、俺にとってこれが真莉愛を救うラストチャンス。

 失敗は許されない。


「吉澤、ヤツの映像の準備は任せたぞ」


 ついに結婚式の幕は上がった。

 紫吹と赤城の化けの皮が剥がすことができるのは俺たちだけだ。

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