三雲ルート⑧
01
「ただいま」
俺は山本と別れ、別荘に戻ってきた。
赤城が詐欺師だという真実を知れただけでも良かった。
次からは赤城の被害者から証拠を集めよう。
ちょっとずつだが徐々にアイツを陥れることが出来るようになっている。
このままいけば警察行きだがまだ油断は禁物だ。
叶枝の声が聞こえないけどリビングにいるのかな?
リビングの方に移動しよう。
「おーい、叶枝?」
叶枝はソファで寝ていた。
通りで気づかないわけだ。
俺は近くにあった毛布を起こさないように叶枝にかける。
机には電源が点いたままのパソコンがあった。
知らないうちに作業をしていたのか。
疲れて寝落ちするなんて初めてだから何か新鮮だな。
電気がもったいないから消そうか。
「……ん?」
メールリストに一通の新着があった。
恐る恐る開いてみると、吉澤からのメールだった。
どうしてこのパソコンのアドレスを知っているんだ?
いや今はそんなことはどうでもいい。
内容を確認しよう。
『工藤へ。さっきは大声を出してしまって悪かった。お前の連れの女の子にも謝っておいてくれ。お前たちがいなくなってから俺なりに考えたんだ。
このまま赤城に怯えた生活を送っていったら俺は人としてダメになる。その未来を考えるだけで恐ろしい。だから俺はお前といっしょに立ち向かいたい。お詫びとして昔赤城が詐欺の電話をしていた動画を送る』
URLがあったので俺はクリックする。
数秒間が空いたあと、動画が再生された。
防犯カメラの映像か?
どうやって保存したのか気になるが、今は内容を知るべきだ。
「……」
叶枝が起きないように音量を小さくする。
赤城はプロデューサーである人物に胡散臭い投資を持ちかけていた。
確か当時は出世間違いなしの人でそれなりの金を持っていた。
幸せな人間が許せないのか、赤城は。
周りに上の人間から贔屓されていると言いふらしていて、周囲は笑いながら話を流していたが赤城だけら笑っていなかった。
プロデューサーは赤城の詐欺に見事にハマり、自堕落な生活を送るようになった。
着る服もどんどんみすぼらしくなり、金が無くなると親や親戚からお金を借りていた。
当時の俺はそんな彼を見ていられなかった。
でも子供の自分が口出ししたら何を言われるかわからない、だから何も言えなかった。
これがあれば彼は救われる。
「待ってろ、赤城。直ぐにお前の化けの皮が剥がしてやる」
念の為、コピーをしとこう。
一通りの作業を終え、自室へ戻ろうとするとスマートフォンが鳴り出した。
相手は真莉愛の父 正和だった。
……俺は覚悟を決めて電話をとった。
02
『……工藤くん、君は赤城が詐欺師だということは知っているかい?』
「は?」
正和の声色が重い。
何があったのだろうか。
『私は自分の欲にまみれて周りが見えていなかった。奴は多数の人間を不幸にしてきた人間だ、行方不明になった者までいる。そんな奴の仲間に私は娘をあげてしまった……』
電話越しでもわかるぐらい正和は泣いていた。
能力なんて使わなくても、自分の過ちに気づいているみたいだった。
今更気づいたって遅いんだよ。
「要件はそれだけか?」
「今すぐにでも言いたいが、近くに赤城がいる。奴が帰ったあと、君に私の家にまで来てもらいたい。そこでもう一度話をしたい」
電話越しでも赤城の汚らしい笑い声が聞こえる。
「わかった」
「私の部下に迎えに行かせるから待っててくれないか、直ぐに向かわせる」
そう言い残して正和は電話を切った。
嫌な予感がしてくる。
真莉愛、無事でいてくれよ……。




