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三雲ルート⑥

 01


 昼ごはんを食べたあと、俺と叶枝は真梨亜の別荘から車で一時間かかる街に来ていた。

 この街には俺と同じ子役グループのメンバー吉澤優が住んでいるみたいだけど……。

 数年ぶりに会うから昔と比べてどこまで成長したんだろうかという期待と、赤城に贔屓されていた俺を許してくれるのかという気持ちがある。

 正直会うのが怖い、でも俺が頑張らないと真梨亜が幸せにならない。

 少なくてもいいから情報を得ないと。


「吉澤くんが住んでる家はもうちょっと歩いたらすぐ着くよ。……それとハジメちゃんはあまり自分を責めないでね」


 叶枝は俺が不安がっているのに気がついたのか慰めてくれた。

 小さい頃も同じこと言われたなぁ。


「ああ、ちょっと緊張してるだけだから大丈夫。ありがとうな、叶枝」 


「えへへ、お礼言われるだけで嬉しいや」


 道が複雑化していないおかげで吉澤の家に難なく着いた。

 叶枝が調べた情報だと吉澤は子役グループを抜けたあとは赤城の推薦で都内で有名な中学校に進学して、順風満帆な学生生活を過ごしていたらしい。

 何故か高校の話が出てこないのかは気になるけど今はどうだっていい。

 赤城の弱みさえ手に入れれば良いだけだ。


「午前中だけど吉澤の奴いるかな?」


 夏休みになれば部活に入ってない高校生は進学校か、バイト禁止の学校じゃない限りは大学生並みにバイトに入る。

 もしかすると部活に入っているかもしれないけど吉澤は確か運動オンチだった覚えあるからその線は捨てよう。


「部活もバイトもやってなくて家にいるみたいだよ」


「え? それ本当か?」


「まあでもインターホン押さなきゃわからないよね実際は。嘘情報かもしれないし」


 叶枝が俺に嘘をつくというのはあり得ない、でも吉澤はどんなに嫌なことをされても自宅に引きこもることはしなかった男だ。

 バイトはまだしも、部活もやってないとするとアイツは家で何をしているんだろう?

 叶枝のいう通り考えても仕方ない、インターホンを押すか。


『……はい、どなたですか?』


 一回押すしただけで簡単に人が出てきた。

 普通は居留守すると思うんだけど外見が学生ぽっいから出てくれたのかな?


「吉澤くんに話があって来たんですけど今いますか?」


『ええ、部屋にいますけど……もしかして優くんのお友達なの?』


 元友達だけどな。

 お母さんを騙すのに心は痛むがこれは真梨亜のためだ。

 心を鬼にしなくては!


「……はい、そうです。最近なにをしているのか気になったので」


「彼の仰る通りです。何か私たちの力になることがあったら言ってください!」


 叶枝の一声が聞いてくれたのか吉澤のお母さんは扉を開けてくれた。


「!?」


「息子はご存知の通り部屋に引きこもっているけど、いつも寂しそうだから話し相手になってあげてもらえないかしら……」


 吉澤が引きこもりなのには勿論驚いたけど、お母さんの顔が疲労が感じられるような顔つきをしていたのには言葉が出なかった。

 俺と叶枝は吉澤のお母さんに吉澤優の部屋まで案内してもらうことになった。


 02



 吉澤のお母さんは俺たちを案内したあと直ぐに下に戻ってしまった。

 いざ声をかけるとなると緊張するな。


「お、おーい吉澤! 俺工藤創なんだけど覚えてるか?」


 俺は緊張して声が震えてしまった。

 部屋にいるって言っていたけど全く反応がないな。

 無視しているのか? 

 ドアを叩いても物音もしなかった。

 諦めて帰ろうか考えたが俺は単刀直入に赤城の話題を出すことにした。

 言葉を濁して言っていたのがいけないんだろう。


「赤城について聞きたいことがあるんだけど」


 俺が赤城という言葉を言った瞬間、部屋から物凄い怒鳴り声が聞こえた。


「うるさいうるさいうるさいわうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!! 赤城の名前は出すなぁ!!! アイツに可愛がられてた奴が今更なんの用だ!! 俺を貶めにきたのか!?」


「……叶枝、お前一階に行ってろ」


「え? でも……」


「いいから!」


 俺は無理やり叶枝を一階に行かせて一人だけで吉澤と対話することにした。

 対応を間違えて逆上させてしまった。

 もしかして俺が知らないところで赤城に何かされたのか?


「助けてやれなくて悪かった。昔の俺は赤城に逆らうのが怖くて何も言えなかったんだ。でも今は違う、アイツは俺の大事な人を傷つけた。だから小さな情報でも良い、情報をくれないか?」


 なるべく赤城という言葉を出さないで慎重に話を進める。


「……今更謝っても遅せぇよ帰ってくれ」


「わかった、いきなり来て悪かったな」 


 俺は叶枝の元へ戻った。

 叶枝は吉澤のお母さんと一緒にリビングにいた。

 吉澤のお母さんは俺や叶枝に吉澤優に何が起きたのかを教えてくれた。

 話によると中学生まで赤城の言うことを聞いていたが、子役以外で夢中になれるものを見つけてしまった吉澤は子役業に力を入れなくなってしまった。

 思春期ぐらいの年頃なら何でも目新しく写るから夢中になるのも当然だ。

 しかし、赤城はどこか気に障ったのか吉澤の進学先になる高校にありもしない噂をタレこんだ。

 事実を知らないままの吉澤は進学したあとに噂を知った生徒にこっぴどくいじめられてしまって、引きこもりになった。

 赤城は自分の言うことを聞く傀儡を求めているから、言う通りに動かない吉澤に苛立ったんだろう。

 度が過ぎている。


 昔の吉澤はとても温厚であまりキレたことが無い奴だった。

 きっと言葉に出来ないいじめを受けたんだろう。

 俺は叶枝と共に吉澤のお母さんに今回の件について謝ったあと、家を出た。


「もっと俺が慎重にいくべきだった……」 


「落ち込むことはないよ、彼を信じてみましょう。彼だって現状を変えたいとは思っているはず」


「そうだと良いんだけどな」


 俺たちは次のメンバーの元へ行くことにした。

 タイムリミットまでもう時間はないんだ……



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