三雲ルート④
01
「……目覚めが悪い」
俺は鉛のように重たい体をか弱な力で無理やり起こす。
夢の中で出会った女の子、どこかで会った気がするな……
全く思い出せはしないけど。
それに彼女が言っていた言葉は嘘に思えない。
近いうちに真梨亜に災いが起きる。
一週間後なのかもしくは今日なのか、何はともあれ気を引き締めないといけない。
「もう朝の九時か……」
朝の九時……?
「しまった?!」
真梨亜に朝食を作る予定だったの忘れてた!
いかん、いかん絶対怒っている筈だ急がないと!
俺は急いで自分の身支度をしてリビングの方に向かった。
「遅いわね、ハジメくん。せっかく貴方の分も作ってあげたのに冷めちゃったわ」
真梨亜が一人で朝食を取っていた。
昨日までは幼児退行していたのに今日は元の真梨亜になっているのか。
一体どういう基準で精神年齢が戻るんだ、不思議でならない。
予想外のことで眠かった俺の頭がさっぱり醒めた。
しかも真梨亜は料理が出来たんだな……
ご丁寧に俺の分まである。
「あ、ありがとう……」
俺は真梨亜と向かい合うように座った。
過度なストレス環境から離れたから元に戻ったのか?
……まあ今は余計なことは考えないで真梨亜が作ってくれた朝食を食べないと。
朝にふさわしい目玉焼きと味噌汁、ご飯か。
なんか形態がおかしいが食べて見なければわからない。
恐る恐る口に入れる。
「グハァッ……!」
俺はあまりの衝撃的な味に咳き込んでしまう。
率直に言うとまずいすぎる!
目玉焼きにどんな調味料を加えたのかは知らないが炭を食べているような気分になる。
それと味噌汁は味が濃い、飲めたものじゃない!
中に入っている野菜なんかところどころ皮が剥けていないものがあって俺は食べるのをやめた。
食べれるには食べれるけど……ちょっとこれはなぁ。
「なぁ真梨亜?」
「なにハジメくん? 私の朝ごはんが美味しかったって言いたいのかしら」
真梨亜はつっけんどんな言い方をしているが手には切り傷が沢山あった。
素直じゃないと昔、俺に言っていたけど真梨亜の方が素直じゃないだろ。
一生懸命俺のためにやってくれたんだな。
まずいとは思ったが前言撤回。
頑張って作ってくれた人のご飯を無駄にするわけにはいかない。
「ああ、美味しいよ」
俺は覚悟を決めて残った朝食を食べた。
「そう、良かった……」
真梨亜は年相応の女の子の反応をしていたので今度からはもっと褒めてあげよう。
俺は今、とても幸せな時間を味わっている。
真梨亜とどうでもいい話をして二人で笑っているこの時間が俺にとって最高の時間だった。
いつまでも続けばいいのに。
02
俺と真梨亜は朝食を食べ終わったあと、海に向かった。
せっかくの夏休みなんだから海に行きましょうと真梨亜から提案してきた。
てっきり俺は真梨亜の水着姿を拝めるものだと思っていたが、実際は二人で海を見つめるだけだった。
少しガッカリしたけど何もしないで真梨亜といるのも悪くは無いな。
海には俺たち以外誰もいない。
二人きりだ。
近くにあったベンチに真梨亜が座ったから俺は……少し間を空けて隣りに座った。
流石にくっついて座るのは心臓がもたない。
「……」
やっぱり黙っているだけで絵になるな真梨亜は。
つい見蕩れてしまう。
学園一の美少女である三雲真梨亜を今は俺が独り占めしている。
昔の俺は真梨亜を嫌な女だと思っていたけどそんなことはない。
弱きを助け強きをくじく精神を持っているのは真梨亜しかいないだろう。
そう思うほど俺は真梨亜に惚れていた。
「……ここは小さい頃にお母様とお父様に連れてこられた思い出の場所なのよ」
真梨亜は誰かに語りかけるようにしゃべり続ける。
「あまり覚えていないけど唯一覚えているのは楽しかったことだけ。今思えばあの時だけが最後の幸せだったのかもしれない」
「俺が真梨亜を幸せにする。だからそんな悲しい顔はしないでくれ」
さっき俺は真梨亜に惚れていると言っていたが前言撤回だ。
惚れているじゃない、べた惚れだ。
デートに行った時から俺は真梨亜を気になり始めていた。
「なら絶対に幸せにしてね」
「!?」
突然真梨亜は俺にキスをした。
頭の中にあった計画などがキスのせいで全部消え去った。
とても綺麗だった。
俺の中に真梨亜の愛が流れていく。
「……じゃあねハジメくん。短い時間だったけど幸せだったよ」
意識がどんどん遠のいていく。
真梨亜は朝食に何かを仕込んでいたのか?
視界が薄れていく中で俺が最後に見たのは能力が発現した原因である赤城らしき男が真梨亜を連れ去ろうとしていたとこだった。




