三雲ルート③
01
「中も広い……」
俺が住んでいる自宅と比べると真梨愛の家の別荘はそこに存在するだけで歴史的価値があるように思えた。
どれぐらいのお金でここの内装を作ったんだろうか
思わず俺は小さい子供のように中を歩き回った。
庶民だと別荘なんか買えないからやっぱり色々と隅まで見てしまう。
金持ちは軽井沢でよく長期休みを別荘で過ごしていると聞いたことあるけど真梨愛もここで滞在していたのかな。
二階まで見たところでメイドが俺に手招きをしていた。
何だろ?
人形みたいに表情が無い人だから感情が読み取れない。
「ハジメ様、真梨愛様。そろそろお時間ですので私は帰らせていただきます」
メイドはそう言って自分が持ってきた荷物を抱えて外へ出ようとした。
俺は慌てて引き止める。
真梨愛と二人きりはまずい、人として間違いを起こしてしまいそうになるからせめて大人の人がいないと!
「ちょっ、ちょっと待った! 流石に二人きりはまずいと思いますよ、俺たち若いんだから間違いを起こす可能性も……」
メイドは俺が言うことがおかしいのがクスリと笑みを浮かべる。
そして瞬時に真顔に戻る。
「今の真梨愛様は三日之神の呪いが以前よりも進行しています。数時間前に貴方にしたことを考えてみてください」
「俺の目を手で覆った……あっ」
俺は気づいてしまった。
いや既にわかっていたことだ。
「真梨愛様は紫吹様との一件で幼児退行をしています。そんな方……その子供に手を出せますか?」
俺は何も言えずにただ頷くことしか出来なかった。
メイドは冷蔵庫には一ヶ月生活できるぐらいの食料があるから買い足す必要は無いと言い残し、別荘を出た。
ついに二人きりになってしまった……。
腹を括るしかないな。
玄関からリビングに戻り、俺は真梨愛を呼びに行く。
そろそろ夕飯の時間だ。
「おーい、真梨愛! お腹空いてないかー?」
「お腹空いたけど今ゲームしてるから待ってー!」
いつの間にか真梨愛は二階で俺のゲームで遊んでいたようだ。
一体なんのゲームをしてるんだろうか。
上に上がってみよう。
「入るぞー」
部屋に入ると真梨愛は一人でパーティゲームをしていた。
てっきり一人プレイ用のゲームをしているのかと思ったけど。
「俺はキッチンで夕食作るからキリの良いところで終わらせろよ」
俺は真梨愛がどれだけ上手いのか気になってしまい、テレビ画面を見た。
持ってきたゲームはキャラクターに友達の名前を入れて遊ぶゲームだ、なのに真梨愛は架空の友達の名前を入れていた。
小さい頃は誰とも遊んでいないと真梨愛本人は言っていた。
俺は初めて真梨愛の闇を見た気がした。
もしかして幼い頃からずっとこんなことしていたのか。
見ていられなくて俺より一回り小さく見える背中を抱きしめた。
明日は真梨愛を楽しませてやろう、これはせめてもの恩返しだ。
「もぉー、痛いよハジメくん!」
「ああ、悪い悪い邪魔しちゃったな」
俺は部屋から出た。
……正和を許せなくなってきた。
02
真梨愛と夕食を食べ、俺はリビングにあるソファで寝た。
今日は疲れたからゆっくり寝れるだろうと思っていたがそうはいかなかった。
多分これは夢だろうと自覚する。
「こんばんは、ハジメちゃん」
別荘の鍵や雨戸を閉めたのに何故か見知らぬ女性が俺の目の前にいた。
「……君は誰だ?」
どうしてかハジメちゃんと呼ばれると懐かしい気持ちになる。
俺はこの人と会ったことがあるんだろうか。
「名前を言いたいけど少し言えない事情があってね……ハジメちゃんに伝えたいことがあって来たんだ」
「伝えたいこと?」
とても大人びている風貌をしていて見ているだけで惹き付けられる美しさだ。
つい見蕩れてしまう。
「近いうちに真梨愛ちゃんに災いがくる。ハジメちゃんは早めにここから逃げた方がいいよ」
真梨愛に災いが……?
「どういうことか説明してくれないか?!」
これ以上真梨愛に悲しい思いをさせたくない。
ストレスで呪いが進行しているのに災いなんか来たら真梨愛は一体どうなる!?
「貴方なら真梨愛ちゃんを守れる力がある。私の力が無くても大丈夫なハズだから負けないで……」
追いかけようとすると綺麗な女の人はどんどん離れていく。
待ってくれ!
視界が徐々に薄れていく。
聞きたいことが山ほどあるのに。
俺は不安を感じながら夢の世界から消えた。




