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東雲薫編 8話

  01



 三雲に感謝を述べられたが、あの時俺の体は石のように固かった。

 嫌な予感がする時は大抵体が固くなる、それを誤魔化す為に俺は自分の能力を使って体を軽くさせる。

 怖がりな自分を殺し、目の前で危険な目に合いそうな人物をできる範囲で助ける。


 俺の能力は自分に嘘をつく事で人の嘘が見抜けるようになる。まぁ……三雲には単純に嘘を見抜けるだけだと嘘をついた。

 人の嘘を何度も見てきた俺は嘘をつくのが得意だ。例えば、大勢の人の前で何かの発表をする時に大抵の人は緊張する。体が重くなったり、声が裏返ったりなど。しかし、俺は違う。俺は体が緊張で重くなったりしても、()()()()()()()()()()()()()()()()と嘘をついて自分の心を軽くさせる。




 俺は自分の能力について考えた。三日之神(みかのがみ)とやらが本当にいて能力を消せるなら俺はどうなるんだ?

 以前の自分に戻るのは嫌だ。



 自分の家の前の交差点に近づき、ようやく一休みが出来る……



「だーれだ?」


 突然、俺の目元を女性の手が覆いかぶさった。

 だーれだって誰だよ……男か女かもわからないような声の人物なんて知らない。


「山本か? 磯兵衛か?」


 俺は敢えて相手に乗ることにした。反応さえすれば相手がどういう人物かわかる。



「工藤は友達いないでしょ、何言ってんの」



「……」


 予想以上に心が抉られた。 一体コイツは誰なのか、俺は手を振りほどき、顔を見る事にした。



「君が工藤ハジメかー、ふーん……」


 見た目は幼さを残しつつも、目鼻立ちがスッキリしていて品の良さが目に見える。長い髪にはリボンをつけていて可愛いさを強調している。

 腕には風紀委員会の腕章をつけていた。




「風紀委員会が何のようなんだ? 俺は早く帰って寝たいから用件は早く済ましてくれ」



「そんなせっかちにならないでよー、君の幼馴染から言伝を頼まれたから来たのに」


 彼女はわざとらしく顔を風船のように膨らませている。 ムカつくが、今の言葉は聞き捨てならない。


「叶枝から言伝?」



「君達が知りたがっている東雲さんの情報だよ、呉野がわざわざ調べたんだ」



「叶枝が俺に簡単に情報を渡すとは思えないけどな」


 俺は目の前にいる少女が嘘をついているか確かめる為に能力をONにする。


「呉野は君が絶対に無茶をするだろうから助けてあげてって僕に言ってたよ」


 確かに叶枝は小さい頃から俺が困っているといつも手助けしてくれた。

 ふむ、嘘はついていなかったな。


「本当に東雲さんの情報をくれるのか?」



「僕は嘘をつくのが下手だからねー、ちゃんと真実を話すよ」




「わかったよ、家に着くまでに話してくれ」



「任せて色々話しちゃうから」



 家に到着する時間はおよそ十分、風紀委員の腕章を持つ彼女は時間の短さなんて関係なく東雲さんの全てを話した。

 最初はどうでもいい話から始め、交差点を曲がった時から話の本筋に入った。

 東雲さんは母親が北欧系で父が日本人、幼少期はヨーロッパで過ごして中学に上がる頃に日本に来たらしい。

 彼女が通っていた中学の生徒達はハーフの超絶美少女が転校してきたと聞いた時は、物珍しさで彼女に近づいた。


 男女関係なく誰とでもフレンドリーに接する事ができる東雲さんは全学年から慕われていた。しかし、それをよく思わない人物がいた。

 その人物は生徒から恐れられており、東雲さんの服装を真似した生徒には尋常ではないぐらい叱った。


 粗探しが趣味なのか東雲さんの周辺にいた人物を徹底的に粛清という名の指導を繰り返し行っていた。


 最初の頃は周りには沢山の生徒が居たのに気がつけば東雲さんは一人になっていた。

 東雲さんは自分から頑張って馴染もうとしたのに……



「それで東雲さんは最後にその人物に何を言われたと思う?」



「……いや、もういい。 自分で言っときながらそれ以上は聞きたくない」


 その先を知ってしまえば俺は東雲さんに対する気持ちが変わってしまう。


「もし、東雲さんを学校に来させようとしているなら彼女の本当の辛さを知っとくべきなのに」



「東雲さんは無理して学校に来るべきじゃない」


 東雲さんの能力を体験してわかったが、あれを一年以上見続けてしまえばどんなにタフな人間でも精神が崩壊する。


「東雲さんの過去を知ってしまった以上は君は彼女を救うべきだ。 例えそれが困難であっても」


 東雲さんの能力は東雲さん自身の過去と直結している。見える筈もない他人の悪意にいつも怯えて、誰も信用が出来ない。

 この悩みを解決するには彼女の過去を知ってしまった俺しかいない。


「……俺は俺なりに東雲さんを救う。 実在がわからない者に頼る事はしない」



「これは適わないな……」



「何か言ったか?」



「ううん何でもない。 そろそろ僕は帰るから明日頑張ってね」



 風紀委員会の腕章をつけた少女は俺に名前を告げずに去っていった。

 何故、叶枝が直接俺に言わないのかと思ったが今朝ケンカしたんだった……



「明日の朝、メールで謝るか……」


 俺はようやく家に着き、明日に備える事にした。


  02


 翌日、俺と三雲は午前授業が終わった後に駅前で待ち合わせをする約束をした。


「待ち合わせ時間より早く来たから暇だ……」


 俺は三雲が来るまでスマートフォンを弄りながら駅前で買ったハンバーガーを食べた。


「ごめん、工藤くん。 待った?」


 待ち合わせ時間十分前に三雲が来た。 俺より早く来ると思っていたから意外だ。


「いや、そんなに待ってないよ」




「じゃあ電車の時間もあるし旧校舎へ行きましょう、少し時間がかかるわよ」


 俺や三雲は券売機でブスマをチャージし、旧校舎がある駅行きの電車に乗った。

 旧校舎は新校舎からかなりの距離があり、歩くと一時間ぐらいかかる場所にあるらしい。



「昼間の時間帯だと中はまばらなのね、満員電車っていうものを味わいたかったのに残念だわ」



「満員電車は三雲が想像している以上に大変だから乗るもんじゃないわ」


 満員電車の実態を知ればそういう事は言えなくなるぞ……三雲


「工藤くん、席が空いたわ。座りましょう」



「俺は立ってても大丈夫だから三雲は座っていいよ」




 丁度二人分の席が空いたが、俺は三雲に席を譲った。正直一緒に座ると気恥しいからだ。



「あら? 工藤くん座らないのね。どうしてかしら?」


 三雲の発言を聞いた周りの視線が俺の体にぶっ刺さってくる。

 それを知ってか三雲は笑みを浮かべていた。

 俺達はカップルに見られてるのか??



「わかったわかった……座るから」


 普段ならわからなかった三雲の香りが今は身近に感じられる。ケバい女子高生が使う鼻にくる香水ではなく、気持ちを穏やかにする花の香りがする香水を三雲は使っているようだ。

 匂いを嗅いでるなんてただの変態じゃないか……何をしているんだ俺は。


「も、もうそろそろ旧校舎がある駅に着くわよ工藤くん」


「早いなもう着くのか」


 気がつけばかなり時間が経っており、俺は安堵した。三雲や俺は座った後ずっと黙っていた。

 何を喋ればいいのかわからないから仕方ないんだ。そう仕方ない。



 

 目的地の駅に着いた途端、俺は急に体が軽くなった。 女子と話せるネタこれから作った方がいいな……



「「ハァ……」」


 ―――


 ―――――


「ここが桜ヶ丘学園の旧校舎よ。それなりに歴史は感じるでしょう」


 駅から徒歩十五分。閑静な住宅街を抜けると一気に時代を遡った気分にさせる建物があった。

 駅前や住宅街と比べると建物の作りが一世紀も違うので雰囲気が異なっていた。

 山の中にあるから尚更印象が違う。


「確かに言われてみればそうだな 」


 古びた旧校舎に場違いな祠があるとは思えないけど、本当に生徒達はここまで来るのか疑問だな。



「まあそれもそうだが、暗くなる前に早く行こうぜ」


 

「あまり急かさないでちょうだい。地図見てるから静かにして」


 三雲は地図を見て、俺を祠へと案内した。 グラウンドを横切って、銅像らしきものを通り過ぎた後に三雲は何故か歩むのを止めた。



「三雲? どうしたんだ?」



「工藤くん、あれを見て……」


 三雲が指を指す方向を見ると祠だったものが破壊されていた。大きかったらまだ形などが残骸として残っているのに小さいせいで影も形もなかった。



「おや? 真梨愛こんな所で何をしているんだ」



「お父様!? 」


 俺達の後ろから渋い声をした長身の男が現れた。



「三雲、この人は……」




「私のお父様で桜ヶ丘学園を運営している社長よ。今日は地方にいる筈だと思ったから来たのに」



「すまない。少し野暮用があったから代理の者に任せてきた。 しかし……真梨愛お前はここに来るなと言った筈だ。ましてや男と一緒にいるとは何事だ」



 何か隠しているのか三雲の父は機嫌が悪そうだ。


「友達が今、苦しんでいるから三日之神の祠を調べれば何か分かると思ったのよ。それに工藤君は私の生徒会のメンバーよ」


「あの小娘……どうやら祠を壊しただけでは消えないようだな」


 三雲の父はそう言って旧校舎の方へと向かっていった。

 何か隠しているな、あの感じは。



「三雲どうするんだ? 三日之神の祠が壊れている以上は調べられないぞ」


「私の頭の中に諦めるという言葉はないわ」



 俺は高校に入ってから初めて三雲が怒っているところを姿を見た。

 いつもの冷徹さはなく、氷のように動かなかった表情筋は今は溶けかかっていた。


 

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