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63話「分岐点②」

 01



 東雲達を三日之神から近づかせなくさせる透明化インビジブルを行ってから初めての土曜日。


 あの後に東雲達から感謝の言葉を貰い、俺は自分が人を救う事が出来たのだと安堵した。


 三日之神の能力呪いを貰った能力者達の一件は二ヶ月で終わり、これからは少しの間だけ体を休める事が出来る。


 かといって家にずっといるのもアレだしな……そうだ!


 息抜きに俺は久しぶりに真梨愛の屋敷でメイド活動を再開する事にした。


 もう一ヶ月はしていないからな、まだ真梨愛に正体はバレていないみたいだし。


 早速、支度をして家を出た。

 俺は始発の人がいないガラガラの電車に乗り、真梨愛の屋敷に向かう。


 竜宮寺さんにメイドとしての基礎を全部叩き込まれたおかげか最初の頃と比べると慣れてきていた。


 我ながらドジっ娘スキルを持っているなと関心してしまうほど、周囲にかなりの迷惑をかけていた。


 今では竜宮寺さんの代わりにメイド長になった人に能力を褒められるレベルにはなった。


 ボーッとしていると駅にいつの間にか到着していた。


 危ない、寝そうになるところだった。


 俺は真梨愛の家に到着した途端、急いで俺専用の更衣室に走って向かう。


 俺が男という事を知っているのは竜宮寺さんしかいないのだ。




「はぁ、はぁ……まだ誰も起きてはいないな」




 こんな事なら自宅で先に女装しとくべきだった。


 素早く着替えて女声の練習を数分行い、俺は部屋を出た。


 さて、仕事を始めるか。


 まずは屋敷内をモップで拭く、時間は一時間。


 次に窓拭き、三十分を経過したところで他のメイド達も仕事を始めるようになる。


 一通り屋敷内の掃除をしたところで俺は外に出て、溜まったゴミを三往復もして捨てに行く。


 屋敷に戻る途中、くしゃくしゃに丸まった紙が落ちていた。


 ゴミ袋が破けていたのかな?


 めんどくさいけど捨てに行くか。




 拾って中身を見てみるとどうやら真梨愛を食事に誘おうとしている手紙だった。


 えーと、名前は紫吹……?


 どこかで聞いた事あるような名前だな。


 確か竜宮寺さんが真梨愛に何かを言っていた様な気がするがイマイチ思い出せない。


 気にはなるが早く戻らないとサボっていると思われてしまう。


 後で捨てておこう。




 02




「ふわぁ〜、おはよう……」



「「おはようございます、真梨愛様!」」



 真梨愛が自分の部屋から降りてきた途端、一斉に俺以外のメイドや執事は挨拶をした。


 仕事は慣れたがやはりオフ状態の真梨愛にはまだ慣れない。


 髪がボサボサでだらしないのに顔が真梨愛に勝てる女子は誰もいないぐらい美少女だからだらしなく見えないように見える。


 メイド達は食堂に向かう真梨愛を目にも留まらぬ速さでトレーナーからインフォーマルな服装に着替えさせた。


 着替えを盗み見る暇は無かった……




「あの、今日って真梨愛様は予定とかあるんですか?」




 俺は近くにいた()()()()()メイドに聞いてみた。


「正和様のご友人のご子息の紫吹様と食事を成されるみたい、しかも両親付きで」



 話を掘り下げて聞いてみると真梨愛は紫吹という男からの誘いをずっと断っていたが、紫吹が真梨愛の父正和に言いつけたらしく、お互いの親付きで半強制的に食事をするようになったらしい。


 なるほど、さっきからもの凄く嫌な顔で食事を取るのはそのせいか。


 縛らくして屋敷内にチャイムが鳴り響く。


 外を見るといかにもボンボンな感じの雰囲気を醸し出した男が立っていた。


 しかも無駄に爽やかなイケメンだから尚更腹立つ。


「……」


 食事を終えた真梨愛はチャイムを聞いた途端、体が氷のように固まっていた。


 そんなに嫌なのか?


 真梨愛が扉を開けない事をわかってか何回もチャイムが鳴り響いた。


「真梨愛様、流石に待たせると後々面倒になるので扉を開けますね」


 メイド長は真梨愛に同情している目をしていた。


 重々しい扉が開かれると耳障りな声が俺の耳に届いてくる


「やあ、真梨愛くん!!! 五年ぶりだね! 元気にしてたかい!!! ああ、いつ見ても君は薔薇より美しい!! 君を産んでくれた母上にも感謝をしなくてはね!!!」


 紫吹という男は近くにいた執事を押し退けて真梨愛の近くに来た。


 真梨愛が嫌がる気持ちがわかった。


 コイツ、距離感が異常だ……!


 鼻と鼻がくっつきそうだし、わざと真梨愛の胸に触れる為に近寄っているように見える。


 紫吹は自身がイケメンなのをいいことに沢山の女を食ってきたのだろう。


 あんなグイグイ迫られたら大抵の女は直ぐ気を許してしまうのだろう。


 まあ、まともな人だったらイケメンでも言動がおかしければ直ぐ離れる。



「え、ええ。元気にしてました。紫吹さんは相変わらずですね」



「ああ、やっと君と愛を語れるなんて僕は嬉しいよ。許嫁なんだから!」


 許嫁? あんな何人もの女を誑かしているような奴が真梨愛と許嫁??


 紫吹は真梨愛が嫌がっているのを知っているのか知らないのかわからないが、人の気持ちを理解出来ない奴に真梨愛を渡す事は出来ない。


 何で周りの奴らは止めないんだ?


 能力を使わなくても真梨愛が助けを求めている事なんて分かるのに!



 俺は真梨愛がいる方向に行こうとすると後ろから俺を止める声があった。


「待って」


 さっき俺に紫吹のことを話してくれたメイドが俺を止めに来た。


「何すか? 今俺は忙しいんで」


 多分今の俺は冷静ではないだろう。

 体中が炎に包まれているのかと思うぐらい怒りが治まらない。

 真莉愛に触れるな、お前は触れちゃいけない人間なんだ。

 明らかに三雲家の財産を狙っている。

 真莉愛のことを金の成る木だと思っている顔だ。

 愛を語れるとか言ってるけど俺の能力で嘘をついているとのが丸わかりたま。


「貴方が行ったところで何も解決なんかしないよ。あの紫吹という男は自分が欲しいと思ったものは何が何でも手に入れる、邪魔をしたところでまたお嬢様にちょっかいを入れるだけよ……」



「……それでも俺は行く。アイツが悲しんでる顔なんてもう二度と見たくはないんだ」


 スポーツ大会で一人で泣いていた真莉愛の顔を見た時、俺は決めたんだ。

 笑顔でいさせたいと。


「そう……わかった。なら力を貸したあげる、ちょっとついてきて」


「お、おい!」


 メイドは何を考えているのか俺を無理やり二階に引っ張っていた。


「ここで待ってて」


 俺は言われたまま、部屋で待っていた。

 今も真梨亜は紫吹にちょっかいを受けているのにあのメイドは何を考えてるんだ。


「お待たせ、これ持ってもらっていい?」


 メイドは息を切らしていた。

 持っていたのは水が入っているバケツだった。


「一体何をするんだ?」


「この水をあのボンボンにぶっかけるのよ、自分が汚れるのが一番嫌なんだから。私が合図をしたらお嬢様を紫吹から離れさせて」


「わかった、まかせろ」


 待ってろよ、真梨亜。

 直ぐに助けるからな!

 俺は紫吹や真梨亜にバレないように姿を隠した。


「今よ!」


 勢いよく窓を開ける。

 メイドが合図を出したから俺は外にいる真梨亜に声をかける。

 同時に自分の正体がバレるのではと思ったが今更だ。


「真梨亜! 今すぐその場から離れろ!」



「え? ハジメくん!?」


 俺の叫び声で驚きはしつつも、紫吹の傍から離れた真梨亜を確認した俺は水の入ったバケツを奴の頭にめがけてひっくり返した。


「オアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!??!?」


 突然のことに紫吹はそのまま水を受け止めた。

 もしかしてこの匂いって…… 

 俺は急いでドアを締める。

 まあなんにせよその臭い姿で真梨亜には近づけないだろう。

 いくら馬鹿でもわかるはずだ。


「名前のわからないメイドさん、ありがとう……って」


 後ろにいるはずのメイドさんがいつの間にか消えていた。

 ……いや待てメイドって誰だ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 疲れが溜まっているんだろう、それより真梨亜の元に行かなきゃ。

 急いで一階に向かおうとすると誰かにぶつかった感触があった。


「あ、すいません! って誰もいない」


 俺の気の所為だったのか?

 些細なことで止まってる暇はない、急ごう。

 きっと紫吹は水をかけた奴がわかれば逆上する、いつもなら怖気ついていたけど今日は違う気がする。

 勇気がみなぎってくるっ!


「頑張れ、ハジメちゃん」


 どこか安心する声を聞いて俺は外に出た。

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