叶枝ルート⑫
大広間に三日之神はいた。
寂しそうな顔をしながら階段に座っていた。
ずっとここにいたのか奴は俺を見つけると途端に嬉しそうな顔をして近づいてきた。
俺が殺しにきたと思っているのだろうか。
「やぁ、工藤くん。一年振りだね、覚悟は決めたのかい」
三日之神の顔を見ていると以前と比べるとやつれているように見えた。
禍々しさは無くなっているが雰囲気が少しおかしい。
まるで早く自分を殺してと言わんばかりだ。
「ああ、決めたよ。その前に一つ聞いていいか?」
「……構わないけどどうしたのかな」
「お前、俺に嘘をついただろ」
周囲の温度が急激に下がったような気がした。
三日之神は俺に自分にはこの世から消えた人間を完全復活できる力は無いと言っていた。
しかし、三日之神は自分を殺せば別人として叶枝を復活させると俺に言った。
明らかに矛盾している。
マイナーといえど神様が嘘をついていいのか?
「証明できるものはあるのかい、無いのに嘘だと言われても困るよ」
俺の能力は相手が自分より口が回る奴だったらすぐに負けてしまう。
だからそれを補う手が必要なんだ。
「証明できるものは無い、だがこんな状況になったら例え神様でも答えるはずだ。熱かったら嫌だよなぁ」
「!?」
屋敷内は炎に包まれる。
案の定、三日之神は驚きを隠せていない。
俺が火をつけたと思い込んでいるみたいだけど実際は違う。
昨日、俺は西久保に連絡して俺に暗示をかけるように言った。
熱かったら嫌だというキーワードを出せば次第に周りが炎に包まれているような感覚に陥る。
呪いを作った張本人に効くかどうか分からなかったけどどうやら効いているようだ。
西久保が言うにはタイムリミットは三十分、それまでに三日之神の嘘を解き明かせねば。
暗示だといえ息が持たなくなるのはまずい。
あいつには無理させたな、後で何かしらお礼しよう。
三日之神の印は消えたけど三日之神本人が消滅しなきゃ能力はなくならない。
能力者本人の呪いの影響は儀式によって消えたから多少は安心できる。
だから西久保のチカラを借りた。
「君、正気なの……? いくら三雲真莉愛が既にいないとはいえつい最近までは住んでたのよ? 彼女に思い入れはないの!!」
三日之神と合体したとはいえ、まだ真莉愛に対しての気持ちはまだ薄れていない。
真莉愛関連の話題を出して嘘だということを暴く。
「思い入れはある、でも俺とアイツはただの友達だ。いなくなったらそれまでなんだ……今の俺は叶枝の為に生きてる。だから三日之神、お前には洗いざらい話してもらうぞ」
「もし……もし、仮に私が叶枝ちゃんを完全に復活できたとするよ。君たちは絶対誰が見ても羨むぐらいのカップルになるだろう、だがそれが永遠に続くと思っているの?」
ビンゴ、俺の能力が三日之神が嘘をついていると反応している。
それに反応がさっきからおかしい。
あと少しだ……。
「そうだな、結婚すれば学生時代には見せなかった嫌なところが見えてくるかもしれない。些細なことで喧嘩をして嫌な気持ちになるかもしれないけど、これは当たり前のことなんだよ三日之神。自然と嫌なところは見えてくるよ、でもな愛しているなら嫌なところでも好きになれる……お前は昔、人に騙されたから分からないと思う」
三日之神は人間として生きていた時に人に嘘をつかれて殺された。
なのに今、彼女は自分を騙した人間と同じ手口を使っている。
どうしてなんだ……?
「……私の過去は既に知っていたのね、ええもちろん私は人の嘘で殺された。君はまだ子供だから知らないだけ、人間は汚い穢らわしい生き物よ。大好きな子だって優しくても裏ではどういうことをしているかわからない!」
「愚問だな三日之神」
「どういうことかしら」
お前は言ってはいけないことを言ってしまった。
「叶枝はなぁ! 俺が子役であまり学校に行けない時はテストの範囲を教えて一緒に勉強してくれたり、朝は誰よりも早く俺の為に朝食を作ってくれる! 他の女の子と話せばとても長い長文LINEが来るぐらい嫉妬焼きで俺を好きでいてくれる。心配性で俺に喧嘩を売りそうな奴を陰でシメてくれるのは叶枝しかいない。そんなアイツが好きだ。俺だけじゃない、叶枝を好きでいてくれる人は沢山いるんだ。文武両道で種目美麗、誰もが憧れる奴をお前は消した。原因は俺にあるかもしれないのがいけない。でもなもう俺は過去の自分とは違う、だから返してくれ叶枝を!」
俺は我を忘れてキレてしまった。
「……降参だよ、工藤くん。私は穢らわしい人間と同じように嘘をついていた。叶枝ちゃんを完全に復活することはできるよ」
三日之神はどうやら諦めたようだ。
安心したのか俺は腰が抜けてしまった。
「ただね、どこに出没するかはわからないんだ」
「どういう事だ?」
「私は人を復活させることしかできない。今いる場所まで戻せる力はないんだ。工藤くんが持ってる婚姻届があれば探せると思うよ、ちょっと貸してもらっていい」
三日之神は嘘をついていない、本当みたいだ。
俺から婚姻届を受け取った三日之神は証人としてサインをした。
叶枝に会えるなら何年かかってもいい。
早く早く会いたいよ、お前に。
「私の力がかかった婚姻届なら居場所を探してくれると思う。無いよりはマシだよ」
「ありがとう、三日之神」
「……小さい頃と比べると強くなったね。あの子も喜んでると思うわ」
「何か言ったか?」
「いや何でもないわ。ちょっと疲れたから私はここで寝るから家に帰っていいよ……」
三日之神はそう言って俺を三雲邸から不思議な技で追い出した。
屋敷はタイムリミットを過ぎたから俺や三日之神にかかった暗示は消えた。
なのに……
三雲邸は本当に炎に包まれていた。
「三日之神!!!」
戻ろうとしたが炎が強すぎて戻れなかった。
……俺はスマホで消防署に連絡をし、その場から離れた。
さっき聞こえないふりをしたが実は聞こえていた。
昔、三日之神と会ったことがあるのか俺は……。
謎が深まるばかりだが今は叶枝に会うための準備をしなくてはいけない。
なのに涙は止まらなかった。
三日之神、お前は一体……。
誰もがお前を忘れ去っても俺は覚えていよう。
叶枝を消し去った許せない奴で命の恩人でもある三日之神を。
ありがとう。




