叶枝ルート⑪
01
「一、二、三、四……九番あった!!」
桜ヶ丘高校は道路側に桜の木が百本以上ある。
俺は叶枝が残してくれた日記を頼りに全部確認した。
もうどれぐらい時間が経ったんだろうか。
服が泥まみれになるまで俺は地面を掘り続けた。
そしてようやくお目当ての物を見つけた。
どんなに
「日付が十年以上前……懐かしいな」
今では考えられないようなぐちゃぐちゃな字に俺は思わず昔を思い出す。
土の中から出てきたのはお菓子の箱だった。
中身を開けると学校で見た時とは違う物が入っていた。
当時大事にしていた対戦カードゲーム、叶枝が持っていた人形など様々な物があった。
十年も経っているのにまだ色あせてはいなかった。
「お、そういえば未来への自分に向けて手紙書いたんだっけ」
予想通り俺が書いた手紙の内容は在り来りなものだった。
幸せになれていますか?
今はこの一言を見るだけで心が苦しい。
俺はまだ幸せではない。
……叶枝は未来への自分になんて書いたのかな、見てみよう。
便箋は女の子らしい可愛い色をしていた。
『未来の私へ。
私はちゃんとハジメちゃんを守れていますか?
今のハジメちゃんは女の子の私よりか弱くて腕相撲をしても私が勝っちゃう。
負けず嫌いで何回やっても結果がわかっているのにチャレンジしてくれる、だから私は手を抜かないで全力で勝ちに行ってる。
真剣な顔をしているハジメちゃんが好き。
変なところで男らしくて自分より体の大きい上級生に私が喧嘩売られそうになったら直ぐに助けてくれる、勿論勝てるわけがないのはわかってる。
それでも私を守ろうとしてくれるところが好き。
でも私の方が強いからハジメちゃんが強くなるまでずっと守る。
未来のハジメちゃんはどんな人になっているんだろう、私より強くなれているのかな、心配だ。
三日之神からもらった能力でハジメちゃんの未来を見てみるといけ好かない男の人に因縁をつけられるみたいだし、早めに潰しとかないと。
もう時間は無い……今のうちに出来ることはやらないと。
ハジメちゃんの為なら私この世界から消えても構わない。私に生きる希望を見出してくれたあの子に恩返しをしたい』
「叶枝……」
俺は昔と比べると強くなれたよ。
嘘を見抜く能力のおかげかもしれないけどそれでも俺はお前を守りたい。
恩返ししたいのは俺の方だ。
あの日、叶枝と出会っていなかったら弱虫のままだったと思う。
俺にとって叶枝は自身を変えるきっかけになった運命の人だ。
一目惚れだとしても俺は叶枝が好きだ、お前の気持ちに気づかなくて悪かった。
手紙をポケットに入れようとしたら何かが落ちた音がした。
「これは……婚姻届?」
少し年季が入っているようだが叶枝の名前が書かれていた。
呉野の苗字は消えているみたいだな。
本来なら婚姻届は自分達の旧姓を書かなければいけないけど、今叶枝はこの世の中から消失した。
従来通りに書いていたら結婚としては成立はしないだろう。
……もしかして叶枝は自分が消えた時に備えて復活できる物を用意していたのか?
日記や手紙には俺の苗字にしていたから持ち物は消えずに済んだ。
じゃあこの婚姻届を使えば叶枝は復活できる可能性がある!
しかし、呉野じゃなくて工藤叶枝として復活したら俺たちの関係性はどうなるのだろうか。
結婚としては成立しないから兄妹になるのか?
いやまだ実行したわけじゃないからわからない。
三日之神のところに行くしかない。
奴は以前、自分を殺せば別の人間として生まれ変わることができると言っていたがどうも違和感がある。
もしかして嘘をついているのか?
02
「またここに来てしまった……」
俺は今は誰もいない三雲家跡に来ていた。
真梨亜が住んでいた家は実は本邸では無かった。
他の人に聞くところ別の街に本邸があるらしい
俺が三年生に上がると同時に真梨亜は療養のために桜ヶ丘から離れていった。
少し心寂しい。
誰もいない三雲家跡は不穏な空気が流れている。
もしかすると三日之神はここにいるかもしれないという考えがどこかにあった。
「中に入ろう」
きっとこの屋敷内のどこかにいるかもしれない。
三日之神を騙して叶枝を完全復活させるためには嘘を上手くつくしかない。
別人として生まれ変わることなんか絶対にさせない。
俺は呉野叶枝といっしょに婚姻届を出しに行きたいんだ!




