叶枝ルート⑩
01
「どうしてお前がここにいるんだよ」
「君に話があってきたんだよ、工藤くん」
「……話?」
「ここじゃあれだから場所を移動しようか」
不敵な笑みを浮かべる三日之神、以前に会った時と比べると口調が変わっている。
既に竜宮寺さんは消えてしまったのか。
もう少し話したかった……
今、目の前にいる女は竜宮寺さんの体を悪用している奴だ。
邪悪な笑みを浮かべる様は優しかった彼女とは似ても似つかない。
俺は叶枝と初めて出会った公園に移動した。
「話ってなんだよ」
既に時刻は深夜だからか周辺には誰もいない。
普通の人間には三日之神が見えないから第三者からしたら俺は一人で喋っている危ない人になる。
気にしてたらしょうがないけどな。
「工藤君の彼女になった呉野叶枝ちゃんの話だよ、君はまだ真実を知らないみたいだからね」
「真実……?」
「叶枝ちゃんは工藤君を守るための力を使いすぎたせいで世界から存在を消されたんだよ。君がもう少しあの子の気持ちに気づいとけばね、と言っても私が気づかせないようにしたんだけど」
……薄々は気づいていた。
叶枝は能力を使って俺を守ったせいで代償として存在が消えたと。
三日之神が俺に呪いをかけていたということについては自身の性格が主な理由だろう。
今更驚きはしない。
「どうしたら叶枝は元に戻れるんだ? 仮にもお前は神なんだろ? 俺を鈍感にさせたんだから」
「言うようになったじゃない、でもねまだ君は子供だよ。何故なら存在を無くした者を完全復活させようとするなんて無理、私にはその力はない」
「そんな……」
「ただ、一つだけなら方法はあるよ」
「なんだ?!」
どんな方法でも良い。
叶枝とまた会えるなら俺は何だってするっ!
「能力を植え付けた私を殺せば別の人間として生まれ変わることが出来る」
三日之神を殺すということはつまり、竜宮寺さんも消えてしまう。
でも殺さなければ叶枝はこの世界には帰ってこれない。
竜宮寺さんは以前、自分と三日之神が同調したら私は消えてしまうと言っていた。
今がその時なんじゃないのか。
いや、そう簡単に決められない……
何を考えているんだ、俺は。
つい最近まで関わっていた人をこの手で直接殺すなんて無理だ。
何か別の方法を探さないと。
「くそっ……」
「私はいつでも待っているよ」
三日之神は霧状になって消えていった。
俺だけが夜の公園に残された。
「……今日に限って月が綺麗だな」
02
叶枝が消えてから一年が経った。
俺は未だ昏睡状態の真梨亜の代わりに生徒会長へとなった。
東雲や詩織、西久保に真梨亜のことを説明する時には少し事実とは異なることを話した。
アイツらを巻き込みたくない、酷い目に合うのは俺だけで充分だ。
一年生を入れて新体制となった生徒会は秋の文化祭の予算などを決めることにした。
全部真梨亜が残したノートを元に手順通りにしているがまるで自分が昏睡状態になることをわかっていたみたいだ。
昼休み、俺は一人で生徒会室で文化祭に向けた書類作業をしていた。
新しく生徒会長になったからには誰にも苦労はさせない。
「あの……」
「ん?」
声がした方を見ると叶枝の代わりに新しく風紀委員長になった二年生の女の子が立っていた。
「会長に少しお話があって来たんですがいいですか?」
「ああ、もちろん構わないよ」
俺は空いていた席に女の子を座らせた。
「それで要件ってなに?」
「これを見てもらっていいですか」
女の子は俺に箱を渡してきた。
……小さい頃に叶枝がよく使っていた道具入れだ。
どうしてだ、存在は消えたら持ち主が使っていた道具も消えるはず。
俺は中身を見た。
「今朝来た時に私の机に置いてあったんです。昨日は無かったのに……箱に工藤と書かれていたのでもしかしたら会長の物かと思っていたんですが、工藤会長?」
箱の中には日記があった。
日記には工藤叶枝と書かれていた。
もしかして呉野のままだったら消えていたかもしれないから叶枝は敢えて工藤にしたのか。
よほど三日之神には見られたくないものがあるんだな。
ページを捲ると俺が書いたような字があった。
……叶枝の奴、俺の字に似せてたのか。
えーと、なになに。
『道路側から九番目の桜の木に私達の関係が始まった物がある、それがあれば私はまた君に会える』
「……ごめん、ちょっと生徒会室の留守任せてくれないかな!?」
「え、え?!」
俺は急いであの地へと向かう。
これから授業があるけど知るか。
叶枝の方が大事だ。
「待ってろ、叶枝!!」




