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叶枝ルート⑨

  01


 俺達は公園から俺の自宅へと移動した。

 記憶を全部取り戻したせいか叶枝と昔の頃の話がしたくなってきてしまった。


「ハジメちゃんはさ、小さい頃に桜の木の下にタイムカプセルを埋めたの覚えてる?」


「あー、確か何かのアニメに影響されて夜遅くまで地面掘ってたなぁ」


 幼い頃、俺と叶枝は()()()()()()()()()()()()を書いてお菓子の箱に入れた。

 当時は俺たち以外にも同じようなことをしてた人達もいた。

 そういえば叶枝は自分にむけてどんなことを書いたんだろうか?

 見ようとしても見せてくれなかった気がする。

 俺は幸せに暮らしていますか、元気ですか? みたいなことを書いた覚えがある。

 我ながら可愛げがない。


「うん。それでさ明日桜の木に行って掘り起こしてみない? あの頃と比べると私たち大人になったしさ」



「まあ決まりとか特にないし、行ってみるか」


 少し俺は気になることがあった。

 俺と叶枝は両思いで晴れて付き合うことになった。

 凄い嬉しいことだし、今すぐにでも兵藤に自慢しに行きたいところだ。

 しかし、叶枝はまだ俺をハジメ()()()と呼んでいる。

 付き合う以上はお互いに下の名前で呼び合いたい。


「あのさ、叶枝」


「なに、ハジメちゃん?」



「俺たちさもう付き合うんだからその……ハジメちゃん呼びはやめてくれないかな」


 今までハジメちゃんと自分で口にしたことが無かったから恥ずかしい気分になる。


「えーと、十年以上もハジメちゃん呼びしていたから今更違う呼び方なんて恥ずかしいよ」


 いや、こっちも恥ずかしいわ!?


「叶枝が言いやすいので良いんだぞ」


 叶枝にとって言いやすいのはハジメちゃん呼びだ。

 自分で言っといて気づけないのはダメだな……。


「……ハジメくん」


 隣からか細い声が聴こえてくる。

 俺は思わず聞き返した。


「え?」


「ハジメくん……これでいい?」


 顔を真っ赤にしながら初めてちゃん以外で俺を呼んでくれた。

 第三者からしたら付き合っているのにくん付けはおかしいと思うかもしれない、でも俺達はこれでいいんだ。

 やっと一歩前へ進めた。

 もう俺と叶枝は幼なじみさじゃない、恋人同士だ。


「お、おう。ありがとうな、叶枝」


 心臓が暴れていて俺はまともに叶枝の顔が見れない。

 顔が熱を帯びているのがわかる。


「……」


「……」


 叶枝と俺はお互いに顔を見つめていた。

 ふぅ……

 これはもうアレなのでは?

 叶枝はベッドに座っていたので俺は自然と隣りに行く。

 近くに座っただけで汗がダラダラ出てきた。

 どうやれば正解なんだ?

 は、初めてだから間違い犯したらどうしよう。


「ハジメくん」


 叶枝が俺の唇にキスをした。

 とても熱く、熱く。

 沸騰してしまいそうなぐらい情熱的だった。

 これが幸せなんだろうな。

 好きな人と愛し合えることができる、自分には無いものを埋めて貰えることができる。

 ようやく愛を知れた。


 俺は叶枝をベッドに押し倒した。

 真下には叶枝がいる。

 いつも近くにいたようで遠くにいた叶枝が今は触れ合えるぐらいの傍にいる。

 ああ、叶枝は本当に俺のことが好きだったんだな。

 ずっとずっと俺が好きと言うまで待っていてくれた。


「待たせて悪かったな、叶枝。俺は大バカ野郎だよ」


 十年以上待ってくれた叶枝の為に俺は勇気を振り絞る。


「……最後ぐらいいいよね、神様」



 叶枝と俺は時間なんて気にせずに愛を囁きあった。

 二人の絆は一つになった。




 02



「……あれ、いつの間にか俺寝ちゃってたのか」


 目を覚めると既に時刻は深夜を回っていた。

 途中で叶枝とご飯を食べた後に第二ラウンドに突入したから少し体が痛い。 

 生まれて初めて……一つになったからまだ体に違和感がある。

 不快ではないから別にいいんだけど。


「叶枝はまだ寝ているのかな」


 小さい頃の叶枝の寝顔は天使のようでまた見れると思うと嬉しい。

 俺は隣りで寝ているであろう叶枝の顔を見た。


「……あれ?」


 ()()()()()()()()()()()()()()()()

 一階のリビングに行っても、違う部屋を見ても叶枝はいなかった。

 まさか……

 俺は急いで外に出た。


「……嘘だろ」


 叶枝の家が消えていた。

 前回と比べると俺はまだ叶枝のことを覚えている。

 いったいどういうことなんだ!?


「おい、ここに呉野叶枝の家があっただろ!!?」


 俺は通行人に叶枝のことを聞いてみた。

 家の近所の人なら叶枝のことは知っているはず!


「呉野……誰それ? それより工藤くん夜遅いのだから早く家に戻りなさいよ」


「……」


 何も言えなかった。

 俺だけが叶枝を覚えていて世界は叶枝を忘れている。

 あまりのショックに膝をついた。



「―――こんなところで何をしているんだい工藤くん」


 後ろを振り向くと見たくもない顔があった。

 人を人として見ていない神様。


「三日之神……」


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