叶枝ルート⑧
01
リオンパークでまだ一部分だが叶枝に関する記憶を取り戻した。
そのおかげで俺は叶枝が自分に対していかに尽くしてくれていたのかを気づいた。同時にある思いが俺に芽生えた。
「どうかしたの?ハジメちゃん」
「い、いやなんでもない!」
俺と叶枝は一泊二日の旅を終えて帰る為に駅へ向かっていた。
記憶を取り戻したから小さい頃の思い出とかを喋れるようになったのは嬉しいのに、どうも叶枝の顔を見ているとドキドキしてくる。
どうしたんだ俺は……?
あんだけ一線は超えないと考えていたのに今は叶枝と付き合いたい、結婚したいとしか考えられない。
俺といっしょに喋っている叶枝の顔は本当に綺麗だ。
「は、ハジメちゃん? 何で私の顔をずっと見ているの?」
「いやすまん。綺麗だなって思ってさ」
「そ、そ、そんないきなり言われたらどう対応したらいいのか分からないよ!」
叶枝は見る見る顔を赤くしていた。
とても可愛らしい。
まだ一部だが記憶が戻ってから以前の俺と比べると少し性格が変わったかもしれない。
自分で言うのもおかしいけど積極的になったな。
まるでナンパが上手い外国人みたいだ。
これからもずっと叶枝といたい。
それはわかっているのに少し気がかりなことがある。
普通なら人を好きになるには何かしらの理由が存在する、なのに俺にはその理由が無い。
思い出せないのだ。
顔を見ているだけで叶枝との未来の生活を想像するぐらいには好きなのに惚れた理由がわからない。
好きなのに……
これも記憶が無くなったせいか。
俺は最低な人間だ。
「どうかしたの? ハジメちゃん」
叶枝は俺の顔を覗きこんできた。
思わず目を逸らしてしまう。
叶枝のことだ、能力を使って俺が喋らない未来を見ていたのだろう。
「何でもないよ、早く行かないと電車の時間に間に合わない」
「ちょっと待ってよ! ハジメちゃん!」
絶対に記憶を取り戻そう。
ずっとこのままじゃダメだ。
最低な人間から卒業しなきゃ。
02
一時間以上をかけて俺たちは桜ヶ丘に帰ってきた。
久しぶりの光景で俺は少し安心する。
早速帰って記憶の在り処を探そう。
「ハジメちゃん、家に帰る前にちょっと来て欲しいところがあるんだけど」
「? 別に構わないけどなんだ?」
「気になるかもしれないけど着いてからのお楽しみだよ」
叶枝は俺に笑いかけた。
その顔を見てるだけで俺は……自分がやってきたことが間違いじゃないと思うことが出来る。
俺が子役紛いのことをしていたのも叶枝に見てもらいたかった。
どんなに辛いことがあっても叶枝が楽しんでもらえればいいと。
叶枝は自宅とは反対側の道を進んでいく。
見慣れない道なのに頭が痛い。
息苦しくなる前に叶枝は歩くのを辞めた。
「ここが私とハジメちゃんが初めて出会った場所だよ」
「……」
それはどこにでもある普通の公園だった。
小さい子達が元気よく遊んでいる姿を見て俺は次第に思い出す。
幼い頃の俺は今と比べると体が弱くてよく同い年の子にいじめられていた。
泣きながらいじめっ子に立ち向かうもすぐ返り討ちにあっていた。
ある時、俺は人に見つからないところに連れてかれた。
友達は誰も助けずにただ見ているだけだったのを覚えてる。
プロレスごっこという名の拷問を一人で味わっていた最中、運命に出会った。
「いじめはダメー!!」
そう言いながら男の子の顔面に蹴りを入れたのは叶枝だった。
当時はとても男勝りの女の子でよく男の子相手に喧嘩をしていた。
俺は自分より強い女の子を見て……一目惚れをしてしまった。
誰にも助けてもらえず、ずっといじめられていくんだと思っていた俺はまるでヒーローのように現れた叶枝に見惚れた。
漫画やアニメだと女の子が主人公に助けられて惚れるというのが、あるけどまさか自分が女の子の立場になるとは思ってもいない。
いつか大きくなったら助けてくれた恩を返したい。
彼女と一緒にいられる人間になりたい。
そう思って今に至った。
「……叶枝、俺は昔と比べて強くなれたかな?」
「うん。ハジメちゃんはもう私がいなくてもいいぐらいに強くなったよ」
俺は自分の想いを口にする。
「初めて出会った時から俺はお前のことが好きだ!」
言い終わる前に叶枝は俺に抱きついてきた。
「私もハジメちゃんが好きだよ、誰よりも」
俺たちは人に見られながらずっと抱きついていた。




