叶枝ルート⑦
01
俺と叶枝はリオンパークに来ていた。
周りはカップルや家族連れが多くて少し歩くだけで直ぐに誰かとぶつかる。
街中でぶつかってしまえば喧嘩になることもあるのにみんなそんな事はせずに楽しそうにテーマパークを満喫していた。
流石は現実を忘れさせてくれる夢の国だ。
俺は人混みのせいでダウン寸前なんだけどな。
「ハジメちゃん大丈夫? 顔色悪そうに見えるから近くのベンチに座ろ」
叶枝はタイミングを伺っていたのか俺の側にあったベンチを指をさしていた。
また能力を使ったのか……本当に心配性だな。
そこがいいところなんだけどさ。
未だに子供扱いされるのはちょっと恥ずかしい。
「悪いな、叶枝。せっかく俺に記憶を思い出させる為にわざわざ着いてきてくれてるのに」
「いいの、いいの! ハジメちゃんが元気じゃないと私心配で心配で夜も寝れなくなるんだからしっかり休んでね」
元気よく喋っている叶枝だけど顔には疲れが見えていた。
ちゃんと寝れていないのか、俺のせいで。
叶枝は俺が元気じゃないと寝れないとか言うけど俺だって叶枝が辛そうなら心配だ。
早く記憶を戻さなきゃ!
十分もしないうちに俺はベンチから立った。
「ハジメちゃん立って平気なの?」
「ああ、少し座れば大丈夫だ」
そうは言ったものの、リオンパークに来てからどうも気分が優れない。
頭痛いし、胸がムカムカする。
やっぱりここが俺の失われた記憶なのか。
「心配だけどハジメちゃんがそう言うならわかったよ。そしたらここに行こうか」
叶枝はリオンパーク内のアトラクションが書かれたマップを俺に見せてきた。
えーと……お化け屋敷?
「本当に俺は昔ここに行ったことあるのか?」
「行ってなきゃ行かないよ、もしかしてハジメちゃんお化け屋敷苦手なの?」
「いやそんなことは無いはずなんだけど……」
むしろ叶枝がお化け屋敷苦手だったような気がする。
気の所為か?
「じゃあ早速行ってみよう!」
叶枝は俺の手を引いてお化け屋敷の方向へ歩き出した。
夢の国にお化け屋敷があるのは驚きだけど周りを見渡すとこっち方面にはカップルしかいないからイチャイチャスポットとして作られたんだろうか。
普段の俺ならクソ喰らえと思っているけど今の俺は叶枝と二人きりで他人から見たら恋人にしか見えない。
割り切るしかないな。
―――
―――――
「ようこそ! 刑事の皆様! 当旅館は……」
俺達はリオンパーク入口からかなり離れた位置にある「絶叫殺人屋敷」というお化け屋敷に来ていた。
今、キャストの方がお客に世界観を共有させるために頑張って設定を話しているが大半は話を聞いていない。
ちゃんと聞いているのは俺と叶枝だけだった。
館内が暗いのを良いことにカップル達はイチャついていた。
よく平然と話していられるよな、俺だったら発狂してしまう。
いや他人の事より叶枝がさっきからずっと喋っていないのはどういう事だ?
まさか……
「叶枝、もしかして怖いのか?」
「そ、そんなことないから!! むしろハジメちゃんが怖がってるんじゃないの?」
図星だ。
能力を使わなくても嘘をついている事はわかる。
何か前も同じ光景を見た気がする。
「まあいつも親代わりしてくれる叶枝が女の子らしい反応してくれてるから凄い可愛い」
「……いつもそれぐらい素直に言ってくれたらいいのに」
「これより開場いたします!!」
叶枝は何か言ったようだけど丁度キャストの声と重なってしまい、聞き取れなかった。
「ごめん何て言った?! ってうわ!」
「ハジメちゃん!?」
お化け屋敷の扉が空いたせいでカップル達が一斉に動き出した。
大勢の人が動き出したせいで俺と叶枝は離れ離れになってしまった。
俺は身動きも出来ずに前へ前へと押し込まれる。
どんなに手を伸ばそうとしても叶枝には触れられなかった。
アイツを一人にしたらダメだ!
遠くで誰かの声が聞こえていた。
02
俺の考えは甘かった。
所詮テーマパークにあるお化け屋敷だから十分もしない内に出口にたどり着けるだろうと思っていたが……
「きゃああああ!!」
「ぎゃああああ!」
このように本格的に恐怖を体験できるお化け屋敷だったみたいだ。
少し頭を使わないと簡単に出られないようになっていた。
直ぐに道に迷ってしまう、くそ。
こりゃあ早く見つけないといけない気がするな。
「なにせアイツは暗いのが苦手だから」
歩いていく度に他の記憶が蘇っていく。
ああ、段々と思い出してきたぞ……
叶枝は昔、幼い頃に旅行先のホテルで停電騒ぎに巻きこまれたことがある。
確かその時は台風が来ていたとかで長時間もの間暗闇が続いていたらしい。
まだ幼かった叶枝はあまりの恐怖で泣いていたみたいだ。
そりゃあ大人でも不安なのに小さい子供が平気でいられるわけがない。
叶枝は大きくなった今でも暗いところが苦手なのに俺といっしょにこの恐ろしいお化け屋敷に行ったのは凄い。
でもどうしてそこまでして行きたかったのかは未だにわからなかった。
「記憶を思い出したおかげで道も大体わかるようになってきたな」
周囲を見渡すとどうやら俺しかいなかった。
リタイヤしたのか。
さっきから俺を脅かそうと必死になっている幽霊役の人が待機しているがあえてスルーしとこう。
どんどん道を進むとうずくまっている女の子がいた。
俺一人だったら幽霊かと思うけど今は二人だ。
「叶枝、暗いの怖いくせによく頑張ったな」
肩を叩くと叶枝は泣いていた。
「も、もしかして記憶を思い出したの?」
「ああ、何とかな。全部じゃないけど叶枝が苦手なものぐらいは思い出せた」
「……早く抜け出そうハジメちゃん」
叶枝は俺に手を差し伸べてきた。
今度は俺がお前を導く番だ。




