叶枝ルート⑥
01
叶枝は俺の傷が治るまで旅行は後回しにした。
キャンセル料は出てしまったから俺は自分のせいだと思い、料金を払った。
流石に今回ばかりは俺のせいだからな。
数日後、叶枝は早朝に傷が癒えているかを確認するために俺の自宅へと突入してきた。
寝ぼけていて何がなんだかわからないまま俺は叶枝に連行された。
目を覚ますと当初の計画で泊まる予定だったホテルの部屋に俺はいた。
……わざわざ布団で寝かされていて。
周りを見渡すと叶枝の姿は無かった。
別部屋だろう。
男と女が二人きりで泊まるのは夫婦や家族では無い限り出来ないはず。
叶枝に連絡する時に寝ぼけたままじゃ流石にまずいから顔を洗ってこよう。
俺は重い瞼を擦りながら洗面所に向かった。
「ん? シャワーの音が聞こえるな……」
まさかお風呂に叶枝が入っているわけないだろう。
きっと覚えていないだけでシャワーを切り忘れていたんだろう俺が。
俺はドアを開けた。
「あ、おはようハジメちゃん」
目の前には裸の叶枝がいた。
「ちょ、ちょっと待ったああああああああぁぁぁ!! 何でお前裸なんだよ!」
昔一緒にお風呂に入った覚えはあるけどその時は体がまだ未成熟だったからいいものの、今はまずい!
俺のブツが耐えきれない!!
少し動いただけで揺れる大きな果実を見るだけで理性が吹き飛ばしそうになる。
耐えろ、耐えるんだ俺!
「小さいころ一緒に入ってたんだから別に私見られても平気だよ、ほら」
叶枝はタオルすら巻かずに俺にどんどん近づいてくる。
「やめろ、くるな」
叶枝はふざけているのか本気なのかわからない。
真面目だった叶枝がこんなおかしいことするわけないと思いたい。
「お前を慕っている後輩達にその格好を見せられるのか、詩織にも」
壁際まで追い詰められていた俺は叶枝を止めるために後輩の名前を出した。
男としては嬉しい限りだけど俺と叶枝はあくまで幼なじみだ。
一線だけは絶対に超えない。
叶枝は家族で守らなきゃいけない存在だから。
「……どうして今他の女の子の話を出すの? ハジメちゃんは私といるんだよ。ハジメちゃんは詩織ちゃんを後輩として大事にしているのはわかってるけど私はハジメちゃんから他の女の子の名前を出してほしくない、例え詩織ちゃんでもね。だからさ……」
叶枝は俺に自分の気持ちを話してくれた。
……どう答えればいいのか。
叶枝は明らかに俺を幼なじみとしてではなくて男してみている。
でも俺は幼なじみとしてみている。
記憶を無くす前の俺は叶枝のことをどう思っていたんだろうか。
些細なことは思い出せるのに叶枝との大事な思い出だけが思い出せない事に何か関係があるのか。
「ごめん、いきなり言われても困るよね。ちょっとハジメちゃんを困らせようとしただけだから気にしないで」
そう言って叶枝は俺を洗面所の外に出した。
何か焦っているようにも見えたけどまだ俺に隠していることがありそうだ。
02
「私達がこれから行くとこはリオンパークというところなんだけどそこは私とハジメちゃんが初めて旅行先で遊んだ遊園地なんだよね」
数分後、叶枝は何事も無かったように俺に話かけてきた。
無理しているようにも見えるけど俺は辛そうな顔をしている叶枝は見たくないから笑ってくれているだけで安心した。
叶枝がいうリオンパークはパンフレットを見る限り女の子向けの遊園地に見えるけどこれ本当に俺は行ったんだろうか。
「なぁ、俺が行っても浮かないよな? 明らかに場違い感ヤバそう」
「大丈夫、意外と男の人もいるから浮かないよ。それにハジメちゃん小さい頃は可愛い系大好きだったんだから。目をキラキラしながら嬉しそうにしてたの今でも覚えてる。あの時ハジメちゃんは私に……」
「待った、待った。とりあえず俺の記憶が戻らない限りは思い出語りも出来ないだろ」
俺のことになると興奮して早口になるから誰かが止めないと大変な事になる、特に俺が。
「ゴホン……ひとまず私部屋から荷物取ってくるからハジメちゃんは下のロビーで待ってて」
「ああ、わかった」
流石に叶枝は別に部屋を取っていた。
いくら幼なじみといえど男と女、一夜を共にしたら何が起きるかわからない。
俺は叶枝を見送った後に自分の身支度を始めた。




