叶枝ルート⑤
01
現在朝の八時。
人が行き交う中、俺は桜ヶ丘駅で叶枝を待っていた。
今日は旅行当日。
叶枝との思い出の地を巡る旅行の日数は三日。
本当に記憶が戻るのか不安になってきた。
「流石に早すぎたか……」
待ち合わせの時間は一時間後なのに俺は昨日の一件があったせいでどうも落ち着かなかった。
俺達は兵藤が服屋を離れるまでずっとあの体勢でいた。
本当だったら午後の予定は旅行代理店でホテルの予約をする筈だったが、叶枝と一緒にいたらまともに喋れなくなる可能性があったからネットで済ませる事にした。
自分が情けなくてしょうがない。
今朝も待ち合わせ時間の話だけをして後は何も喋らなかった。
色々と考えたがやはり叶枝と目線を合わすと胸がドキドキしてしまって朝飯もろくに食べてない。
叶枝が来るまでだいぶ時間あるからコンビニでおにぎりでも買いに行くか。
俺は適当に店内を物色し、お目当てのおにぎりを手に取ろうとした。
するとポケットの中にあるスマホが振動し始めた。
……叶枝から電話。
どうしたんだろ?
「もしもし、叶枝何かあったか?」
「ハジメちゃん、今コンビニにいるの?! もしそうならそこから早く離れて!!!」
叶枝は他の人にも聞こえるぐらいの声で俺に忠告をしていた。
「え? ちょっと意味がわからないんだけど」
俺はおにぎりをレジの方に持っていくと遠くから悲鳴が上がってきていた。
通り魔? それとも事故? いや……
「トラックがこっちに向かってきている!!」
頭が混乱しそうになるのを抑える為に俺は自分に能力を使った。
ここは冷静にならないと意味が無い。
まず店内にいる人間を避難させなくては。
通話中のままになっているスマホから叶枝の声が聞こえている。
だが一刻を争う。
今は気にしない方がいい。
「ハジメちゃんが助けなくても店内にいる人全員助かるから!! ハジメちゃんだけが危ないの!」
俺だけが危ない??
いやそういえば叶枝は俺限定の未来視ができるんだよな……
やばいやばいやばい!
もうすぐそこまでトラックが来ている!!
間に合うか???
俺は一かバチか博打に出ることにした。
「一時的に運動能力が人間を超えるっ!!」
運が良いのか俺の体中に電流が走り、この瞬間だけ人間を辞めることが出来た。
目にも留まらぬ速さでレジから離れてコンビニを出た。
既にトラックがコンビニにぶつかる寸前まできていたがギリギリのところで何とか回避することに成功した。
トラックはそのままコンビニにぶつかっていた。
「た、助かった……ぶっ!」
勢いよく飛び出したせいで俺は壁に頭をぶつかった。
一瞬だけだが人間の運動能力を超えたからこの代償は仕方ない。
本当にいつも叶枝に助けてもらってばっかだな。
叶枝の未来視には感謝しなきゃいけない。
消さないといけない能力だけど。
いずれ俺が消さなくては。
―――
――――――
あれ、気のせいか意識が遠のいていくな。
頭打ったからか?
まあ誰か救急車呼んでくれるだろう。
02
「―――あれ? 俺何してたんだ?」
目が覚めると俺は傷だらけだった。
周りを見渡すと近くにあったコンビニにトラックが突っ込んだみたいで救急車などがいっぱい来ていた。
もしかして俺も事故の被害者なのか?
でも俺にそんなに記憶は無いし……
しかもなんで俺制服じゃないんだ。
まだ学校あるはずなんだけど?
状況がさっぱり掴めない。
おかしいな、誰かと電話していた事は思い出せるんだけど名前が出てこない。
「大丈夫だった?! ハジメちゃん!?」
叶枝が傷だらけの俺の元に走って寄ってきた。
「叶枝が電話してくれなかったらどうなってたかわからないよ」
さっきまで何か考えていたような気がするんだけど一体なんだってたんだ。
怪我していたから幻覚でも見ていたのだろうか。
叶枝に聞いてみるか、念の為。
「ついさっきまで考えていた事が急に消えたんだけどこれって病院とかに行った方がいいのかな」
叶枝は少し間を置いた後、笑顔で大丈夫だよと話す。
いや頭を打ったから病院で検査はした方がいいだろとツッコむと叶枝は慌てて訂正をした。
旅行当日で死ぬ思いにあうとは先が思いやられる。




