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東雲薫編 7話

  01



「今、紅茶入れるから二人はそこの椅子に座っててね」



 東雲さんは俺達を部屋に入れた後、もてなす為にお菓子を準備していた。

 引きこもるようなタイプに見えないな。



「工藤君ちょっといいかしら」



「な、何だよ? 三雲」



 三雲が東雲さんに聞こえないように俺に話しかけてきた。近くに座っているせいか吐息が首元に届いて気分が変になる。


「東雲さんがこっちに来たら工藤君から何か話してみて」



「俺が? いやいやいきなり無茶振りはキツいわ」



 話といっても東雲さんがどういう人物かわからないし、直球で事件の事聞くか。



「お待たせ、お金持ちの三雲さんにはこの紅茶は口に合わないと思うけど大丈夫?」



「私は味とか気にしないから大丈夫よ、気遣いありがとうね」

 三雲、嫌味に気がついてないのか?東雲さんは俺や三雲の真正面に座った後、ご丁寧に二人分のティーカップを用意してくれた。とても言える雰囲気ではない……

 完全に相手ペースだ。しかし、俺は負けない。


「東雲さん? もしかして能力者?」


「……工藤君、三雲さん。私を訪ねて来たのは不登校についてでしょ? 」


 俺に答えを言わないという事は東雲さんは俺に嘘をついた。つまり、東雲さんは能力者だ。


「!?」



 俺が言うまでもなく東雲さんから喋りかけてきた。


「東雲さん、可能な限りで教えてくれ。どうして学校に来ないんだ? 」



「理由を知ったところで貴方達には解決ができないよ」


 三雲の予想通り、東雲さんは能力者だ。俺の能力を使ってみたが嘘はついていない。



「私達は東雲さんに無理に学校に行かせようとしている訳じゃない。東雲さんの力になりたくてここに来たのよ」



「今までそういう事を言う人は何度も嫌になるぐらい見てきたわ……」


 何か地雷を踏んでしまったのか東雲さんは先ほどとは打って変わって雰囲気が暗くなっていた。嫌な予感がする。


「信用出来ないかもしれないけど、私達は絶対に東雲さんを裏切らない。だから安心して」


「じゃあこれを見てもまだそんな事言える?」


 東雲さんの片目が突如として変色した。色はとても直視出来ないような色で俺は目を背けようとしたが……




「三雲!!」


 東雲さんは俺ではなく三雲に何かをしようとしていた。俺は三雲を押しのけた。


「え? 工藤君??」


 三雲は俺に押しのけられた事に困惑していたが、俺は自分の行動は正解だと思った。

 大量の鉛が入ったかのように体は段々と重くなり、視界が闇に染まっていく。

 入れ替わりした時と比べるととても気持ちが悪い。



「工藤君、君は私が味わっている()()に耐えられるかな」


 視界が闇に染まった途端、映像が流れてきた。


  02


 自分のクラスではないようだが、誰かの視点で授業を受けていた。

 特に変わっている様子は無いと思っていたが、周りにいた生徒達の顔が突然変化した。

 人間だった面影がないぐらい顔はスライムのように爛れていた。



 隣にいる醜い化け物は俺に何かを話しかけてはいるが、目視するだけで辛い。顔を見ているだけで、吐き気がする。


 教師であろう人物が喋っているが、頭の中で不協和音が鳴り響く。



「頼む……やめてくれ」


 俺は耐え切れなくなり、近くにいるであろう東雲さんに助けを求める。



「これで分かったでしょう? どんなに相談に乗ってもらってもこの能力は消える訳がないの」


 東雲さんが俺の肩に触れたおかげで、ようやく恐ろしい光景が塵のように薄れていった。

 この光景をずっと東雲さんは見てきていたのか……


「工藤君、大丈夫!?」


「あ、ああ何とかな……東雲さん、さっき言っていた言葉をもう一度言ってくれないか?」


 三雲は俺を心配してくれていたのか直ぐに駆け寄って来た。俺はその心配をよそに東雲さんに問いかけた。



「さっきって……ああ、貴方達だけが怪物に見えないって事? 」



「ああ、俺達だけあんな爛れた怪物に見えないのはおかしいだろ? 」


「もしかして……貴方達」


 東雲さんは俺達も能力者だと気がついた。これで俺達に少し興味を持たせる事が出来たと思う。



「三雲、今日は帰ろう」



「……そうね」


 東雲さんの傷は思っていた以上に深かった。どうしてこうなってしまったか調べる必要がある。


 ――


 ―――



「……」


 東雲さんの家を出た後、三雲は何か考え事をして黙っていた。


「ねぇ、工藤君。 私の考えを聞いてもらっていいかな」


「別に構わないよ」



 三雲は何か考えがあるようだ。多分考えは一緒だ。東雲さんを救うという事は。


「正直私と同じように親から能力を継承してきたんじゃないかと思っていたけどそんな事はなかった」



「能力なんて私達みたいな思春期真っ盛りの子どもに持たせてはいけない。 東雲さんと同じように能力に苦しめられる娘は見たくないわ」



「三雲、能力を消す方法はわかっているのか? あの能力がそう消えるとは思わないよ」



三日之神(みかのがみ)って工藤君は知っているかしら?」



「確か三日之神(みかのがみ)ってつい最近までは生徒に人気な願いを叶える神様だったけど……それが?」


 三日之神(みかのがみ)というのは古い時代の神様で大きい力は持っていないが、悩みを抱えている人達の願いを微力ながら叶えていたらしい。

 今現在は旧校舎の方に三日之神(みかのがみ)の祠が移されているみたいだけど。



「私はね学園内で私や工藤くん以外の能力者が出現したのは三日之神が絡んでいるんじゃないかと思うの。 だから能力を消すには三日之神しかいないわ」


 生徒の願いを本当に叶えられるなら三日之神はうってつけだが……


「まさか神様がやったって言うのか?」



「工藤君の能力なら私が嘘をついていないのはわかるでしょ? それにちゃんと理由があるわよ」



 俺の能力をすっかり信用してくれているのはありがたい。

 俺は三日之神が生徒の願いを叶えるという事実を疑って旧校舎には行かなかった。


「実際に重い悩みを抱えていた人が嘘みたいに明るくなっていて、その人も三日之神の祠に行ったみたいなのよ」



「生徒に人気なら東雲さんが行ってもおかしくないな。 でも何で神様が呪いみたいな能力を与えたのが理解ができない」



「明日、旧校舎にある三日之神の祠に行ってみましょう。行けば何かが分かるはず」


「旧校舎は俺行った事ないから案内頼めるか? 三雲」



「工藤君、意外ね。てっきり旧校舎の場所を知っているかと思っていたのだけれど」


「余り理由は聞かないでくれ……」




「真梨愛様、そろそろお時間です」



 俺の後ろからタイミングを見計らって三雲の部下である大男が現れた。

 夢中になって喋っていたから送迎車が止まっている場所まで来ているとは思わなかった。



「じゃあね工藤君また明日。それと……」



「さっきは助けてくれてありがとうね」



 三雲は俺の反応を待たずに大男と一緒に歩いていった。

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