叶枝ルート①
01
「今近くに行くと危ないから私と来て」
振りむくと先程俺に紫吹についての事を教えてくれたメイドさんが俺の手を掴んで外に出た。
この手の感触……以前もあったような気がする。
「おい、何で止めるんだよ」
「いいから静かにして!」
戻ろうとする俺を無理矢理止めて中の様子がわかる近くの茂みに移動させた。
行かせない理由を聞こうとした瞬間、あの人が現れた。
「どうしてここに……」
竜宮寺さんが音もなく真梨愛と紫吹が揉めてる場所に現れた。
もう竜宮寺さんの面影はない。
今そこにいるのは怨霊と化してしまった三日之神だった。
周りにいるメイドさんや執事達は何が起きているのかわからないのか状況が俺以上に把握出来ていない様に見えた。
三日之神は病院で会った時と比べると雰囲気が変わっており、見ているだけで心臓が止まってしまいそうなぐらい死の雰囲気を醸し出していた。
あの場にいたら俺は他の人達と同じ様に固まっていただろう。
どうしてこのメイドさんは三日之神が来る事がわかったのだろう。
中の様子を見てみると真梨愛は竜宮寺さんだった三日之神に言葉も出ないのかずっと見つめていて、紫吹はあろう事かこの場から逃げ出そうとしていた。
しかし、ドアを開けようとしても開けれないのか紫吹は叫びながらドアを叩いていた。
「何で扉が開かないんだよォォォ!!!」
三日之神は一歩ずつ紫吹がいる場所へと近づき始めた。
突然、近くにいた執事やメイド達が倒れ始める。
彼女が歩く度に人はドミノ倒しのように倒れていく。
「ハジメちゃん、ここから離れよう。ここにいたら命が危ない……」
「ハジメ……ちゃん?」
02
何故女装をしている俺の正体がわかったんだ?
名前を呼ばれた途端、急に視界がぼやけ始めて目の前にいるメイドさんの顔が他の人の顔に見え始めてきた。
何だ、この感覚……
まるで自分が自分ではないような感じがしてくる。
混乱している俺をよそに頭の中に忘れていた記憶が一つだけ入り込む。
記憶は俺の中で失われていた部分を修復
俺の事を工藤とは呼ばないでハジメちゃんと呼ぶ年上の幼なじみ。
小さい頃から何をするにも一緒で俺の為に一生懸命世話をしてくれていた。
「……叶枝か?」
「ッ、今は逃げるのが先だから!」
俺はどうして叶枝の事を忘れていたのだろう。
誰よりも大切な人な筈なのに。
屋敷外から逃げ出そうと俺と叶枝は茂みから移動するが屋敷内にいる筈の三日之神が紫吹を抱えて俺達の目の前に現れた。
「儂が授けた能力を充分に使っているようだな小娘、果たしていつまで持つかな」
叶枝は三日之神から守るように俺の前へ出てきた。
俺より身長は大きくないのに叶枝は必死に両手を広げて三日之神を俺に近づかせないようにしていた。
足元は震えているのに……どうしてそんなに俺なんかを守るんだ。
「いつまで持つかなんてどうでもいい、二度とハジメちゃんの目の前に現れないで」
「精々短い時間を楽しむがいい。人は所詮哀れな生き物、どこまで足掻けるか見物よな」
三日之神は俺達を蔑むように見た後、霧状になって消えた。
紫吹は三日之神に連れ去られていったけど真梨愛の姿が見当たらない。
真梨愛を探しに屋敷内に入ろうとすると俺が考えている事が最初からわかっているのか叶枝が腕で制止してきた。
「私が三雲さんを探しに行くからハジメちゃんは外で待ってて」
幼なじみだから俺が考えている事は丸わかりか。
「お、おい!」
叶枝が中に入って数分、俺は外で待っていた。
……叶枝が真梨愛と同じ様に三日之神から能力を植え付けられていたという事実に俺はどう反応をしていいのかわからない。
俺が叶枝の事を忘れていたのも能力が関係しているのか?
色々と聞かないとな。
「ごめん、待たせちゃったね」
外に出てきた叶枝は疲れきっているような顔をしていた。
中で一体何があったんだろうか。
「真梨愛はいたのか?」
「いやいなかったよ。三雲さんも紫吹みたいに連れ去られたと思う」
「そうか……」
俺は幼なじみである叶枝に能力を使った。
叶枝は俺に嘘をついている。
遠くから救急車の音が聞こえてきた。
そうなると真梨愛は屋敷内で他のメイド達と同じ様に倒れているのか。
昔から叶枝は嘘をつくのが下手くそだ、全くもうちょい上達したっていいと思うんだけどな。
「叶枝、嘘をつくのが下手くそすきるぞ。屋敷内の惨状を俺に見せたくなかったんだろ」
俺の指摘を受けて叶枝は困ったように笑ってみせた。
「ハジメちゃんも成長したんだね、あの頃と比べると。私が能力を植え付けられた理由も話しても大丈夫そう」




