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東雲薫編 6話

  01


「えーと、貴方は確か……」


 俺の目の前にいる人物は昨日会った先生なのはわかるが、名前言われたっけな?


「その人は青木奏さん、昨日入ってきたばかりの先生よ」



「昨日は名前を言わずに何処か行っちゃってごめんね。 三雲会長に頼み事をしに来たらまさか君がいるとは」



「昨日色々とあって生徒会に入ったんですよ。 俺も名前を言っていなかったので工藤って覚えといてください」


 これは三雲にも言える事だが敢えて言うのはやめよう。



「青木先生、何か用があって来たのですよね?」


「あ、ああ、いけない忘れていたよ。三雲会長に東雲さん宛のプリントを届けに行ってもらおうか頼みに来たんだ」


 三雲はこれを良い材料だと思っているのかいやらしい笑みを浮かべていた。



「ちょうど良かった。工藤君に放課後、東雲さんの家に行ってもらおうとしていたんですよ。 用事増えるけど大丈夫よね?」



「くっ……分かりました」


 この状況で断れる訳ないだろ……断ったら何をされるかわからないし。


「助かったよー、ありがとう。僕の初めての授業だから遅れないでね」


 青木先生の担当科目は理数系だと勝手に思っていたが、実際は文系科目らしい。外見はメガネをかけていてとても神経質そうに見えるが、実際に喋ってみると物腰柔らかくて凄く感じが良い人だ。

 あの時はよく顔を見ていなかったが、今見てみると悪い人ではなさそう。


「もう時間だから行くか」


 気がつくとチャイムが鳴っており、授業開始まであと十分しかない。急いで教室に行って教科書の準備しないと。



「あ、そうだ少し待ってもらえない?」




「ん? どうかしたか?」



「これから色々な事があると思うからお互いの電話番号を交換してみない?」



「昨日の電話の着信履歴とかで残ってないのか?」



「入れ替わりした時はまさか君が生徒会に入るとは思っていなかったから消しちゃったわ……」




「今どき携帯番号交換しなくてもLINEのQRコード使えば直ぐに連絡出来るんじゃないか?」



「埒が明かないわ、いいからスマートフォンを貸しなさい!」



 三雲は俺の手から強引にスマートフォンを取り、電話番号を登録していた。



「これでよし……私が教室に戻った後、勝手に電話番号を消さないでよ」


 携帯番号を打ち終え、三雲は俺にスマートフォンを渡す。多分、学内で初めて三雲の電話番号をゲットしたんじゃないか?

 今まで親と叶枝の電話番号しか入っていなかったら、三雲の番号を手に入れられたのは嬉しい。

 叶枝に聞かれたら自分の電話番号は大事ではないのかと言われそうだが、産まれてからずっと一緒だったせいか叶枝の事は家族としか見られない。

 家族以外の人の電話番号を貰えた事は俺にとってつまらなかった学園生活を変えた一歩だと思えた。


「工藤君、ニヤついてて凄く気持ち悪いわ」


 前言撤回、後で電話番号は消すからな!!!





  02


「今日のHRはこれで終わり。 来週の月曜日は男女別クラス対抗のスポーツ大会があるから体操服を忘れずにね!」


 担任の一言で静まっていた教室は一気にざわつき始める。 この瞬間が一番嫌いだ。

 俺は急いで席を立ち、生徒会室へと向かおうとした。


「遅いわよ工藤君」


「三雲? 何でここにいるんだよ」


 教室の外に出ると顔が強ばっている三雲が立っていた。



「メールで工藤君の教室に向かうって送った筈なのだけれど……ちゃんとメールぐらい見なさい」


 俺は急いでスマートフォンのメール欄を見ると確かに俺の教室へ向かうと書いてあった。

 少し気になるのだが、何でメールの最後には泣き顔と土下座の絵文字があるんだ?



「ああ、悪ぃな。今度から気をつける」



「理解できるのならいいのよ。 さぁ、早くこの場所から移動して東雲さんの家に行きましょう」



 三雲の顔を見た生徒達はいっせいにこちらに聞こえないようにひっそり話を始めた。

 俺は黙って三雲の腕を引っ張っていく。



「ちょっ、ちょっと工藤君!?」



「いいから早く移動するぞ! 日が暮れる前に東雲さんの家に行かないと」



「……そうね」


 三雲は俺の腕を強く握りしめていた。


 ―――


 ――――


「ここが東雲さんの家か……なんかイメージと掛け離れているからビックリ」


 暫くして俺達は東雲さんのマンションに到着した。学校から東雲さんのマンションはあまり遠くはなく、歩きでも直ぐいける距離だ。

 俺が通っている桜ヶ丘高校は三雲の他にも金持ちがいて、地域の住民からは金満マンモス校と呼ばれているが……まさか俺以外にも平民がいたんだ。


「えーと、工藤君。 ちょっといいかしら」



「何だ三雲?」



「私がインターホン押しても怖がられないよね? 凄い手が震えてるのだけど」


 三雲の顔を見てみると尋常じゃないぐらいに冷や汗をかいていた。


「緊張しているのか三雲? 凄い汗かいてるけど」


「私、そんなに汗かいている?」



 素直になればいいのに……



「俺が傍にいるから任せろ。三雲はいつも通りの三雲でいくんだ」


「う……うん。ありがとうね工藤君」


 三雲は何故か顔を赤くしていた。


 三雲の前に立ち、俺は東雲さんの部屋番号を入力する。インターホンは鳴り響くが、いっこうに東雲さんが出てこない。



「あれ今日は家にいる筈だって先生に聞いたのだけど留守かしら?」


「どうする出直すか?」


 明日に持ち越そうとしたその時、少女の声が聞こえてきた。


『ど、どうぞー!! 入ってきて……いいよ』



 インターホンから聞こえてきた東雲さんの声は息を荒らげていた。 運動不足にならない為に筋トレをしていたのか?

 固く閉ざされていたドアは開き、いよいよ能力者である東雲さんと対面の時間がやってきた。


 東雲さんの部屋は二階にあり、俺達は階段で行く事にした。



「よし……じゃあドアを叩くわよ」


 東雲さんの部屋に着いた後、三雲は深呼吸をして不安定なリズムでドアを叩いた。

 少し間が空いた後、ドアは開いた。


「ようこそ、私の部屋へ。歓迎するよ()()()三雲さんと工藤君」



 光の束を集めたような金髪で目は海のように蒼く、輝くように美しい容姿を東雲さんは持っていた。なのにどこか儚げな印象があった。



「ちょうど暇だったから上がって上がって~」


 見た目とは大きく掛け離れた緩い喋り方で俺や三雲を自分の家に招き入れた。

 能力者疑惑のある東雲さんは果たしてどんな能力を持っているのか。

 油断は禁物だ。

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