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三日之神伝説編 56話

 01


 俺と詩織は放課後、平岸芽衣の家に来ていた。

 桜ヶ丘学園中等部に在籍していたとしても流石に全員が全員真梨愛と同じ規模の家ではないだろうと思っていた。

 しかし、直ぐに予想は外れる。


「でっかっ」


 目の前には俺や詩織の身長を軽々超えている門が立ちふさがっていた。

 数台のカメラが四方八方と動いており、監獄のようにみえた。


「私も最初は驚きましたよ、でも案外慣れます」


 いやいや慣れないだろ!?

 緊張してインターホンも押せないから!

 俺はふと詩織の後ろを見る。

 平岸芽衣はずっと笑顔なままだった。

 何を考えているのか全くわからん。



「工藤先輩、私インターホン押しちゃいますからね」


「いやわざわざ言わなくても……」



 途中で言いかけた言葉を止めた。

 詩織の手は震えていた。

 真梨愛も東雲の家に行った時に緊張して同じように手を震えていたな。

 あの時は確か俺は真梨愛を励ましていた。

 今、詩織はずっと行けていなかった親友の家に久しぶりに来たんだ。

 なら俺がすべき事は決まっている。


「俺は詩織が自分の好きな事には一生懸命なのは知ってる。気負わないで普段通りにやってみようぜ」



 我ながら恥ずかしい事を言っているがこれで自信を取り戻してくれれば言って良かったと感じる。


「……私一人だったら絶対逃げ出していたのに工藤先輩がいると勇気が出ます。ありがとうございます」


 詩織は勇気を振り絞ってインターホンを押す。


『誰だ?』


 インターホンから野太い声が聞こえてくる。


「小日向詩織、です。龍一さん」



『詩織ちゃんか……久しぶりだね。体調は大丈夫なのかい』


 平岸芽衣のお父さん!?

「ようやく」と言っていたけどどれぐらいの時間が空いていたんだろう。

 部会者の俺には知る由もない。


「もう私はあの頃の私ではありません、覚悟はしてきました」



 詩織は以前と比べると見間違えるぐらいハッキリと言いたい事を言えるようになっていた。

 初めて会った時は弱々しい印象があったけど今は表情が凛々しい。

 強くなったんだな。


 門が轟音を鳴り響かせながら開かれていた。


「行くぞ詩織」


 俺は詩織の肩を叩く。


「もう逃げる事はしないと決めました。現実と向き合う時が来たんです」


 俺達は平岸芽衣の屋敷へと足を踏み入れた。


 ――

 ――――


「お久しぶりですね、詩織さん。元気でしたか?」


 メイドさん達に平岸芽衣の両親がいる部屋へと案内された。

 そこで待ち構えていたのは洋風の建築とは不釣り合いな格好をした平岸幸恵と暴力団にいそうな平岸龍一。

 俺達は幸恵さんと佐助さんと向かい合うように席に座った。

 真梨愛の家とはまた違った光景に戸惑うが今は抑えなくてはいけない。


「お久しぶりです、幸恵さん」


 詩織はしっかりと相手の目を見ながら話せているが俺は全く合わせられなかった。

 何故なら龍一さんにずっと見つめられている。

 もしかして俺を見ているんじゃなくて後ろにいる平岸芽衣を見ているのか?

 いやそんな事はないか。

 ただ単純に自己紹介をしない俺を不審がっているだけだろう。



「えっと初めまして、小日向さんと一緒の生徒会で活動している工藤創と申します。今日は小日向さんの付き添いで来ました」


 人前で自己紹介をする機会がないから凄くたどたどしくなってしまう。

 龍一さんは俺の自己紹介を聞いた後に何がおかしいのか首を傾げた。


「娘が亡くなってからクラブ活動をしなくなった詩織ちゃんがどうして生徒会を始めているのかな」



 疑問に思ったのか俺に質問をしてくる。


「ちょっと困った事があってその時に工藤先輩に助けてもらったんです。私は先輩に助けてもらったお礼をする為に生徒会に入りました」


 どう言い訳をしようか考えていたら詩織が全部答えてくれていた。

 何かあったら助けると決めていたのに俺が助けられてどうする。



「良い先輩に巡り会えたんですね。天国の芽衣も喜んでいると思いますよ」


 俺は褒められる人間じゃないかもしれない。

 けど俺の一言で詩織が救われたのなら嬉しい。


「本当に芽衣と対面して大丈夫なのかい。……また辛い思いをするかもしれないよ」


 龍一さんは強面の顔の癖に優しい性格の人だった。

 娘を亡くして悲しい筈なのに親友だった詩織を心配するなんて大人だ。



「大丈夫です。いつまでも逃げていられませんから」



 詩織は拳を固く握りしめていた。

 俺の後ろにいた平岸芽衣は先程までの会話を聞いた途端、消えてしまっていた。

 家に着くまでは詩織は平岸芽衣の事をちゃんと視認していたのに今は全く見えていないようだ。

 ああそうか、詩織は勇気を振り絞って一歩前進したから見えなくなったのか。

 じゃあ俺が見えていたのは勇気を振り絞らないで過去に立ち向かわないから。

 ……笑えるな。


「芽衣の部屋に案内しますね」


 話を少しした後に俺達は部屋を移動する事になった。



 02





「では私達は先程の部屋にいますので」


 そう言い残して幸恵と龍一さんは部屋を部屋を後にした。


「ここが平岸さんの部屋……」


 男性アイドルグループのポスターなどが壁に貼られていたり、可愛いぬいぐるみなどがあって中学生の女の子らしい部屋だった。

 部屋には仏壇があった。

 そこには笑顔でピースをしている平岸芽衣の写真が飾られていた。

 詩織はずっと写真を見つめていた。

 俺がいたら()()の邪魔になるから部屋を出るか。



 部屋の外に出たら消えた筈の平岸芽衣が目の前に立っていた。


「!!!?」


 思わず大声を出しそうになるのを堪える。


「き、消えた筈じゃ?」



『実は工藤先輩に伝えたい事があって』



「伝えたい事?」


 平岸芽衣は俺にある事実を教えてくれた。

 詩織が三日之神の祠に行くまでずっと詩織を見守っていた事。

 能力者になった後は俺が能力を抑えるまで三日之神が作った偽物に力を奪われて姿を保てなかったらしい。




『詩織が私が死んでからずっと人との関わりを避けていたのを見て心配だったんですよ、声をかけたくてもかけれなかったのがもどかしくて……工藤先輩があの娘を現実と向き合わせてくれなきゃどうなってたかわかりません』


 きっともし生きていたら詩織と平岸芽衣は長く友達を続けていたんだろうなというのがわかる。


「伝えたい事があるか? 俺が詩織に伝えるよ」



 幽霊は本来なら現世の人間とは関われない。

 俺が関わってる時点でその前提は崩れてしまうけど細かい事を気にしていたらキリがない。


『私みたいな過去の人間が声をかけなくても大丈夫ですよ』


 平岸芽衣は扉の隙間から見える詩織の顔を指さした。

 詩織は晴れ晴れとした表情をしていた。


「そうだな、詩織を見守ってくれてありがとう」


 もう二度と自分を責めて人と関わる事を恐れていた少女は姿を現さない。

 未来への一歩を歩んだ瞬間から小日向詩織は生まれ変わったのだ。


『詩織をよろしくお願いします』


 平岸芽衣はそう言い残して姿を消した。

 詩織が過去と向き合ったんだ、俺も頑張らなきゃ。


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