三日之神伝説編 54話
01
「は? どういう事だ?」
昨日見た動画がいつの間にか見知らぬアカウントによって拡散されていた。
世間は狭いのかあっという間に広まっていた。
ネットでは既に住所特定され、サジェスト汚染も始まっていた。
既にテレビ局にまで動画は流れており、チャンネルを変えても皆同じ話題を繰り返していた。
周りの大人は何故止めないのか、動画を流したのは誰か、生徒が反抗したから手を出したのではないか、女教師は人格が破綻しているサイコパスだなど。
わざわざ専門家まで呼んでいるところもあった。
その光景をテレビで見た俺はそろそろ動き出した方がいいと感じた。
おかしい……こんなに拡散力があるのは異常だ。
どんなに炎上してRT数が増えていってもテレビ局にまで流れるのには多少時間がかかる。
裏で誰かが手を引いているんじゃないか?
俺は気になり、もう一度動画を見てみると新しい真実に気がつく。
女教師は必要以上に周りを気にしながら、生徒に近づいた後に何やら耳打ちをしていた。
書類と書いてある事が全然違う。
もしかして竜宮寺さんは冤罪の可能性を俺に気づかせる為にこんな回りくどい事をしたのか。
百聞は一見にしかずとよくいうがまさにその通りかもしれない。
能力を使わなくても初めて真実に気がつけた。
この事実を世間に広めないと大変な事になる。
早く東雲にこの事を話さなきゃな。
よし、そうと決まれば今日東雲と一緒に東雲の母校に行くか。
俺はパジャマから制服に着替えて今朝買ったコンビニ弁当を食べる。
朝から幼なじみに健康に悪いと言われそうだ。
口にエビフライを入れようとした時、ある事に気づく。
「……俺に幼なじみなんていないだろ」
疲れているのか存在する筈もない幼なじみを勝手に生み出していた。
ちゃんと睡眠は取っているんだけどな。
気を取り直し、箸を進める。
――
――――
台所で容器を洗っているとスマートフォンが振動を始めた。
「東雲からLINE来てる」
えーと、なになに。
東雲から放課後、自分の母校に行かないかと誘いがかかっていた。
話を聞いてみると東雲を能力者にした原因の女教師 末原美智子は東雲の家に電話をかけたらしく、直接謝罪をしたいと言ってきたみたいだ。
タイミングが良すぎるから何かあった時の為に東雲にはある事をして貰わないとな。
念の為にボイスレコーダーアプリでもダウンロードしておこう。
02
放課後、俺と東雲は東雲の母校 Y市立丸山中学校へと向かった。
職員室玄関で訪問リストに名前を書く。
「おや、東雲さん?」
声が聞こえてきた方へ振り向くとそこには優しそうな初老の男性がいた。
「あ、丸岡先生……」
校舎に入った後の東雲は見間違えるぐらいに元気が無い。
俺には無理して笑顔を取り繕うが能力を使えば嘘をついている事がわかる。
「末原先生は会議室にいるから案内しよう。連れの男の子は外で待ってもらってもいいかい?」
丸岡と呼ばれた男性はそう話すと末原先生がいる会議室の方へ案内をしてくれた。
東雲の表情がさっきよりも強ばっていた。
手も震えていて息が激しくなっている。
俺は嘘の能力を使って丸岡先生の姿を見た。
……おぞましい色を纏っているのに丸岡先生の顔はにこやかな表情をしていた。
「東雲、コイツ見かけによらずどす黒いな。この学校には末原先生はいない、既に退職をしてる」
「私に学校でお詫びをしたいと昨日言っていたのに嘘だったの!?」
「君達が言っている事がよくわからないのだけど末原先生が退職したという証拠はあるのかい」
丸岡先生はしらを切り始めた。
まさか嘘を見破っているとは思わないだろう。
汚い大人には痛い目に合わないと。
東雲に合図を送る。
「証拠ならありますよ。見たいですか?」
俺はスマートフォンを取り出し、件の動画を丸岡先生に見せる。
「その動画で何がわかるんだい? まさかそんなのが証拠だとは言わないだろう」
「実は俺、読唇術が出来るんです。末原先生が喋っていた事を話してあげましょうか?」
俺は嘘をつく。
読唇術なんてできはしないけどな。
でも丸岡先生は信じたのかさっきから汗が大量に出始めていた。
「ごめんね、私だって貴方にこんな酷い事はしたくないの。全部丸岡先生が……」
「で、デタラメを言うんじゃあない!!」
「じゃあ何でそんなに焦っているんですか? 嘘じゃないなら否定しなければいいじゃないですか、それか警察呼んだりして俺達を外に出せばいい。やらないって事はやましい事があるんだろ?」
丸岡先生は都合が悪くなったのか急に黙り始めた。
まさか自分の嘘がいきなりバレるとは思ってもいなかったんだろう。
東雲を末原先生のいない会議室に呼んで何をするつもりだったんだ?
「……部屋を移動しようか。周りの人間には聞かせられない話をこれからするからさ」
言われた通り俺達は会議室に移動した。
会議室の窓は全部カーテンで締め切られており、外からは様子が伺えない。
東雲を一人で行かせていたらと思うとゾッとする。
「どういうトリックを使ったのか知らないけど君の言う通り末原先生は退職したよ。全く馬鹿な女だ、言う事を最後まで聞いていれば良いポストは与えると言ったのに」
「工藤、この男は自分が気に食わない相手を人目がつかないところでひたすら殴ってたり蹴りを入れたりしてたんだよ。私もその被害者だった……末原先生は弱ってた私を唯一支えてくれていた命の恩人だよ」
東雲は右腹を抑えながら俺に丸岡先生の正体を話す。
確か聞いた事がある。
人は自己防衛の為に体のどこかしらを守る事があると。
想像はしたくないが丸岡先生が東雲の右腹に蹴りを入れたんだろう。
「正義感を振りかざすタイプの人って苦手なんだよな。わざわざ注意してくるし。ムカついたから弱みを作って私が陰でやっていた暴力行為を彼女になすりつけたんだ」
開き直ったのか丸岡先生は聞きたくもない事をベラベラ喋り始めた。
東雲は隣でずっと震えてる。
こんな大人が学校に居続けたらまた新たな被害者が出てしまう。
「そうですかなるほど……東雲、扉を思いっきり開けろ!」
「え、え、うん!」
東雲は驚きながらも会議室の扉を全開にした。
俺はスマートフォンを取り出してボイスレコーダーで録音した音声を大音量で流す。
『正義感を振りかざすタイプの人って苦手なんだよな。わざわざ注意してくるし。ムカついたから弱みを作って私が陰でやっていた暴力行為を彼女になすりつけたんだ』
遠くの部屋にいる人間にも会話の内容を聞こえるようにした。
騒ぎを聞きつけた先生達は次第にこちらの会議室に向かう筈だ。
丸岡先生の表情は教育者の顔ではなかった。
ブツブツと独り言を喋っている。
そろそろ頃合いだな。
「東雲、もう生配信切っていいよ」
俺はボイスレコーダーの他に東雲に生配信が出来るアプリをダウンロードさせて何かあった時の為にこっそり配信させていた。
既に全国の人間に事件の真実は行き渡っている。
「お前みたいな親のいいとこ取りのガキが憎かった。学生時代に虐げられたから……」
「昔の事で八つ当たりするなんて最悪です。もう人を名乗る資格ないですよ丸岡先生」
その言葉を聞いた途端、丸岡は膝をついて年甲斐もなく泣いていた。
過去に何があったから知らないけど現代に生きる俺達には関係ない事だ。
こんな醜い大人にはならないようにしよう、俺と東雲は心からそう感じた。
――
――――
数週間後、配信された動画やボイスレコーダーを証拠として丸岡は懲戒免職になった。
東雲はその報告を聞き、憑き物が取れたのか学校生活を順風満帆に送るようになった。
もう二度と誰かの目を気にせずに




