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三日之神伝説編 52話

 01


「いやここは本邸ではない。神降ろしの当主を隔離する為だけに作られた寺だ」


 隔離する為だけにわざわざ世界文化遺産に登録されそうな寺を作るとは金持ちが考える事はわからない。


「何の能力も持たない俺達が覚醒した明日香様と一緒にいたら即お陀仏になるからわざわざ大枚はたいて作ったんだよこのデカ屋敷を」


 陽気なお兄さんは車中で話してくれた強面のお兄さんと一緒に寺の玄関らしき門を開けてくれた。



「さて、俺達は門を開けたからここまでだ。じゃあな!」



「夕暮れにまた迎えに来る。()()()()()()()()()()()


 強面のお兄さんと陽気なお兄さんは俺を残して帰って行った。

 今俺は一人ぼっち。

 ……夏だというのにやけにうすら寒い。

 人の気配もしないし、正直俺も帰りたいけどあの竜宮寺さんが呼び出したって事は何か意図があるはず。

 きっとそうに違いない、多分。


「よし行くか……」


 歩き出すといきなり暴風が吹き出し、体が前に進まなかった。

 天気予報だと暴風警報は出されていないのに。

 思う様に動けないせいでイラつくが何とか時間をかけながらようやく入口らしき扉に着く。



 扉を開くと中はひんやりとしていた。

 外の景色は何かで遮蔽されていて見えない。

 本当に竜宮寺さんはこの中のどこかにいるのだろうか?

 一歩を踏み出そうとした瞬間、奇妙な感覚に陥る。

 ここに来るのは初めてな筈なのに以前も来たような気がする。

 いつ来たんだ?……

 瞬間、頭の中にある映像が流れ込んできた。

 小さい子供が髪の長い女の人と手を繋いで歩いている。

 まるっきり今と同じ場所だ。

 一切覚えていないのに体は自然と動いていた。

 自分の体ではないと錯覚してしまう程、頭に流れてきた映像と同じ道を進んでいる。

 ……あの映像にいた子供は俺だよな。

 自身の覚えていない記憶があるというのは薄気味悪い。

 早く竜宮寺さんの元に行って俺を呼び出した理由を聞こう。


 ――

 ――――




 長い廊下を歩いた末に辿り着いたのは行き止まり。

 しかし俺の能力は人ではない壁に反応している。

 無機物に能力を使うのは初めてだがやってみるしかない。

 かといって人間と同じやり方は出来ないし……


「この壁は実は竜宮寺さんの部屋に続いている!」



 嘘を言葉にした瞬間、壁は消え去った。

 通路を道具もなしに塞げるのは神の力じゃないと無理だろう。

 俺の能力がどの範囲まで適用されるのかを調べられているような気がしてならない。


 現れた通路の先には煌びやかな色をした襖があった。

 意を決して襖を開ける。


「久しぶりですね、工藤さん」


 古めかしい着物を着ていた竜宮寺さんがいた。

 最初に会った頃は優しそうな雰囲気を出していたのに今は見ているだけでここから逃げ出したくなる雰囲気を醸しだしていた。

 ただ椅子に座っているだけなのに



 02



「竜宮寺さん、ですよね?」


「ええ、()()()()竜宮寺明日香です。……その様子だと私の秘密を知ったみたいですね」


 竜宮寺さんがいる部屋は外の寺と打って変わって洋風な部屋だった。

 俺は緊張して入口で動けずにいたが、竜宮寺さんは自分が座っている場所に手招きをしてきた。

 断るわけにはいかないから座る事にした。


「神降ろしの役割を降りる事は出来ないんですか。わざわざ辛い役割を担う事はないのに」


「心配してくれるのは嬉しいですが私は降りれません。真梨愛様が三日之神の呪いをもらってしまった以上、新たな封印能力を持った子孫が現れるまでずっと生き続けなくてはいけないんです。三日之神の呪いが薄まるの早くて二百年かかります」


 そんなの酷すぎる……

 竜宮寺さんが何をしたっていうんだ。

 友達や恋人と一緒に人としての人生を歩めないのは余りにも残酷だ。

 能力は人を不幸にする事しか出来ない。


「すいません。辛い事を言わせてしまって」



「いやいいんですよ。そろそろ工藤さんを呼んだ理由を話さないといけませんね」


 辛い筈なのに竜宮寺さんは俺に大人としての威厳を示す。

 何故平気なんだよ……俺が同じ状況なら発狂してもおかしくないのに。


「近い内に私の人格は消えます。三日之神は本格的に私の体を使って新たな能力者を作りかねません。そうさせない為にも嘘を見抜ける能力を使って三日之神を倒してください」


 倒せと言われても竜宮寺さんの顔のままだったら躊躇する。

 いっそ人間の姿じゃなくなれば迷う事はないだろう。

 そうなったら俺は手を出す事が出来るのか。




「誰がなるかわからないのに探しようがないですよ」


 俺が通っている桜ヶ丘高校の生徒数は特別枠を含むと千人以上超えている。

 流石に無理だ。


「工藤さんの周りにいるじゃないですか。東雲さん達もまた能力者になる可能性はあります」 


「俺の能力で呪いは抑えた筈なのにまた再発するんですか?!」



 東雲達が抱えていた問題を解決した結果、呪いは出なくなった。

 なのにどうやって能力者になるんだ。


「植物で例えると工藤さんは葉っぱを全部採取しただけです。本当に呪いを消すには植物が生まれる原因になったものを消さなきゃ意味がありません。じゃないと何回も能力者になる事になります」


 呪いが生まれる事になった原因を排除しなきゃまた悲しそうな顔を見るはめになるのは嫌だ。


「どうすればいいんですか」


 俺だけが不幸な人間でいい。

 アイツらにだけはずっと幸せでいてほしい。


「これを使ってください、きっと役に立つと思いますよ。原因を排除さえすれば能力者になる事は無いです」


 竜宮寺さんが出したのは束になった書類。

 既に東雲達の過去を既に調べていたのか。

 まるでこうなる事がわかっていたみたいだ。

 俺は書類を受け取り、最後に一つだけ竜宮寺さんに問いかけた。


「真梨愛の呪いの原因は東雲達と比べるとどれぐらいのレベルなんですか」


「他の生徒会メンバーよりも長く真梨愛様といる工藤さんならわかります。貴方なら私の力を借りなくても真梨愛様を救えますよ必ず」



 竜宮寺さんは自分がいない前提で話をしている事に俺は何も言葉が出なかった。

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