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50話

 01



 休日、俺は西園寺区にいた。

 西園寺区はギャルに人気なインスタ映えをテーマにしたカフェや海外の有名なデザイナーがデザインした服を売っているファッションビルがある。

 この街に来る人間はイケイケオーラを全快にしていている者達が多く、正直陰キャの俺には立っているだけで辛い。

 しかし、ある目的を達成するまでは倒れるわけにはいかないのだ!


「よし……やっと着いた」


 人混みに揉まれながらようやく目的の場所に着く。

 それはゲーム、マンガ、アニメグッズなどを取り扱っているアニアニ。

 イケイケな人専門の店から離れた場所にあり、周りを見渡すと俺と同族の人がいて安堵する。

 いつもなら外に出ないでネットで商品を注文するだけなのだが、未だに入院している西久保の奴に過去をバラさない代わりにある物を買いに行けと脅迫をされた。

 イケメンがいっぱい出てるゲームを何でもいいから買いに行けとか無理難題すぎる……!!

 しかも自腹とかさぁ。


 逆らったら何をするかわからない西久保に俺は為す術もない。

 過去がバレたらどういう目で見られるのか……考えただけで恐ろしい。

 覚悟を決めろ、工藤ハジメ。


 ――

 ――――


「え、何で男がいるの……」


「私たちの聖地に入ってくるなよブス」


 うぐぅ……何で俺だけこんな目に……


 アニアニは四階建てのビルで西久保に指定されたゲームを取り扱っている店は三階にある。

 俺が目指す店は萌えグッズを取り扱っている店ではなく、二次元イケメンアイドルやBL本を取り扱っている店だ。

 別に男が入る事は禁止されてはいないが、オタクは自分達のテリトリーを汚されるのを嫌がる。

 わかりやすく例えると俺は猛獣がいるアマゾンに裸のまま歩いているようなものだ。


 だから今みたいに精神にくる罵倒の矢を体に受けている。

 早くゲームを買って脱出しよう、身が持たない。

 それにしてもイケメンがいっぱい出るゲームってどういうジャンルだ?

 逆ハーレム物でいいんだろうか。

 商品が陳列してある棚を物色していると見知らぬ誰かとぶつかってしまった。


「ご、ごめん! 大丈夫? え、東雲?!」


 尻もちをついた女の人の手を取ろうとすると見覚えのある人物が目の前にいた。


「工藤?! 何でここにいるの?」


 もしかして東雲はオタクなのか。

 そう思い込んでいたが……話を聞いているとどうやら違っていた。

 東雲も同じく西久保にイケメンが沢山出るゲームを買いに行って欲しいと頼んできたらしい。

 自分のお金を持たせて。

 この格差は流石の俺でも心が折れる……


「それにしても西久保の奴、東雲にまで頼んで何がしたいんだ?」


 あまりにも偶然がすぎる。



「え、えっとそうだ! せっかく二人で会えたんだからどこかでお茶しようよ」


 東雲は何を慌てているのか俺の腕を掴み、急ぎ足で店を出た。

 俺は状況を把握出来ないまま、アニアニとは客層が全然違うシャレているカフェに連れてこられた。


「東雲? いきなり連れてこられて俺、どういう反応していいかわからないよ」


 仕事が出来そうなサラリーマンや煌びやかな服を着ているマダムが客として来ているカフェで学生の俺達は場違いな気がする。

 東雲は俺の目をじっと見ながら口を開く。


「工藤に話があるの」 


 いつにも増して真剣な目をしている東雲の顔を固唾を呑んで見続けた。


 一体どういう話をされるんだ……



 02



「私、あの時助けてもらったお礼の言葉を言えてなかった」



「え、お礼の言葉言ってたよ?」




 俺は同じ過去を繰り返さないように困っている人物を助けただけ。

 助けてもらった事なんて忘れてくれてもいいのに。

 ただのエゴイストの塊に感謝の言葉はいらない。


「確かに言ったけどまだ続きがあるの……工藤や真梨愛ちゃんに助けられてから私は一生懸命生徒会活動を頑張ってきた。最初は恩返しの為だったけど、屋上に言われた言葉を思い返すとこのままじゃいけないって思ったの」 


 屋上で言った言葉……


『どんなに我慢してもこの世の中は自分から変わろうとしなきゃ何も変わらない。理不尽だよね』


 思い返すと自分に刺さるなこの言葉。 



「私は人の目を気にする弱い自分を変えたい。そう決心させてくれたのは工藤だった。ねぇ、工藤……私、強くなれたかな?」



「ああ、最初に会った時より強くなったよ。笑顔が誰よりも眩しくていつも東雲に元気をもらってた」


 最初に会った時の東雲は自分のトラウマを人にバレないように無理に振舞っていた。

 能力を使って自分に向けられる悪意を避けてきた。

 でも俺や真梨愛が能力を解いてからは自然な笑顔で学校生活を過ごしてきていた。

 まさか俺の言葉で救われていたとは思いもしなかった。


「そっか……じゃあやっとあの時の続きを言えるね。助けてもらった時から私は工藤の事が好きだったよ」



 ……??

 え、ちょ、ま、待ってくれ。

 こういう時はどう返答すれば……  



「あ、答えは言わなくていいよ。ずっと思っていた言葉を言えたからスッキリしたから喉が乾いちゃった。あ、すいませんアイスコーヒー一つください!」



 赤面しているであろう俺をよそに東雲は近くを通った店員に飲みものを頼んだ。

 早く東雲の気持ちに気づいてあげられば良かったな。

 俺に好きな人がいると思っているから答えは聞かないって言ったのか?

 ……いやいや何でアイツの顔を思いつくんだ。



「工藤、この後の予定ある?」



「いや無いけど?」 



「じゃあ私と遊びにいこう!」


 色々とモヤモヤしていたけど東雲の笑顔を見ていたらどうでも良くなった。



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